研究課題
前年度に200MHz帯の高周波誘電加熱化学反応装置を試作し、本装置を用いてポリオキソメタレート錯体触媒を介した水の酸化反応の促進が得られることを確認した。本年度は高周波装置の改良に取り組むとともに、高周波による反応促進機構解明のため、高周波照射下でin situで測定可能なラマン分光手法を確立や、被照射物と電磁波の相互作用を解析するための広帯域複素誘電率測定を行った。(1) 高周波反応装置の改良:容量を精密に可変できる板バリコンを採用した通電加熱型の高周波化学反応装置を開発した。S11測定により、触媒混合液を含む際の温度依存的なS11特性を評価し、反応中に高周波電界が最適となる条件を探索した。一方、電極系は依然としてQが高いため、TM010モード型の空洞共振器型の誘電加熱キャビティの開発も行った。200MHzは波長が長く、空気を充填したキャビティはのサイズが大きくなる。一方、誘電体を充填することにより波長が短縮されるため、空洞共振器の小型化が可能である。各種被照射物を装填してS11測定を行ったところ、空洞共振器型では試料に対して波長が十分に長いため、ワークの変化に対して共振条件があまり大きく影響を受けないことが分かった。(2) in situ測定系の確立:反応促進機構解明のために、in situ Raman測定装置を組み上げ、高周波照射下の物質の直接構造観測手法を確立した。本装置を用いて、高周波照射中の水構造の変化や、触媒反応中のWO3の化学構造を取得することにも成功した。(3) 広帯域複素誘電率測定:物質の電磁波吸収は被照射物の誘電特性に大きく依存する。広帯域の複素誘電率測定によって、イオン伝導の生じるMHz帯から、水の誘電緩和が生じるGHz帯の触媒-溶媒混合系の誘電特性を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
高周波誘電加熱装置の開発に成功し、ポリオキソメタレートを介した水の酸化反応の促進が得られることを明らかにした。本成果はChemical Communicationsに掲載され、Back Coverに採用された。また、改良型の高周波誘電加熱装置についてそれぞれ特性の異なる3種類を作製し、触媒濃度、反応温度などに応じて特性の合致する照射系を利用できるようになった。高周波照射中のin situラマン測定手法の確立にも成功し、水構造やWO3触媒構造の変化の追跡が可能となった。
高周波通電加熱型、空洞共振器型、および誘電体充填空洞共振器型の3種類の改良型装置を開発した。本年度はこれらの装置について、反応物の温度依存的な整合特性などを評価し、高周波加熱によって効率的に化学反応を行うデータを取得する。さらに、これらの新装置を用いて実バイオマスの電界酸化反応系の構築と反応条件の最適化を進める。①高周波反応装置の共振条件の最適化:2018年度から継続して開発した電極型反応器および空洞共振器の評価を行う。触媒、溶媒、バイオマス試料を含む反応管を装填し、VNAで温度や濃度を変えながらS11測定を行う。反応時の共振周波数および整合器設定の最適条件を探索し、入力した高周波電力を触媒溶液へ効率的に伝搬する。また、これまでの実験で判明した本装置の課題として、加熱反応中の放熱が大きいため大きな入力電力が必要となってしまうため、反応容器の断熱構造を工夫し加熱効率の向上を図る。最適化した高周波印加条件において、単糖、二糖、多糖(デンプン、セルロース)などのモデル基質や、イナワラ、木粉などの実バイオマスの電界酸化反応を行う。HPLCおよびGCを用いて生成物を分析しつつ、印加周波数、入力電力、触媒の種類と濃度、反応温度、印加電圧、電極種類などの反応パラメーターに対する依存性を解析し、反応最適化の指針とする。②高周波in situラマン分光分析による反応過程の追跡:前年度までの研究で、高周波化学反応装置に簡易ラマン分光器を接続し、高周波の照射中に被加熱物質のラマンスペクトルを取得することが可能な装置を開発し、本装置を用いて高周波照射中の水構造や触媒構造の変化の直接モニタリングに成功した。本年度は本in situ ラマン測定系を用いて、高周波照射中の基質や触媒、溶媒の化学構造変化を追跡し、高周波照射によってバイオマスの分解が促進される機構を明らかにする。
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