研究課題/領域番号 |
17H05049
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
椿 俊太郎 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (90595878)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バイオマス / 電解酸化 / ポリオキソメタレート / マイクロ波 / 高周波 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、誘電加熱装置の改良を進めるとともに、バイオマスと触媒の反応性を高めるための可溶化技術を改良した。また、バイオマス変換反応中の直接観測手法として、新たにin situでX線吸収微細構造(XAFS)およびin situ 共振周波数測定手法を確立し、本手法を用いて誘電加熱による触媒やバイオマスの構造変化の直接観測が可能となった。 (1) 装置加熱特性の改良:前年度に改良した空洞共振器型、平行平板電極による通電加熱型および誘電加熱型装置について、ベクトルネットワークアナライザーを用いたS11測定により、試料の液量、種類、温度、周波数によるマッチング特性を系統的に調べた。最適マッチング条件により効率的なバイオマスの加熱が可能であることを示した。 (2) バイオマス可溶化法の改良:触媒とバイオマスの接触を向上し反応性を改良するため、エチレングリコールを用いたソルボリシスおよびイオン液体を用いたバイオマス可溶化法が有効であることを見出した。 (3) 直接観測手法の改良:これまで、高周波in situラマン分光分析を用いてきたが、本方法はバイオマス由来の蛍光に弱く、ラマン不活性な物質について追跡できない点が課題であった。そこで、新たに電磁波照射中にXAFS測定が可能なin situ観測系を構築した。高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリーにおいて、マイクロ波帯域の電磁波照射中の触媒のXANESおよびEXAFS測定に成功した。また、新たに電磁波によってバイオマスの構造を直接追跡する手法を確立した。誘電加熱中のバイオマス試料の変化を共振周波数の変化としてとらえ、反応中のバイオマスの化学変化を追跡する方法として利用できることを明らかにした。本手法は、分光装置を用いることなく、バイオマスや触媒の構造変化を簡単に直接追跡できる手法として有力である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の研究計画の項目に基づいて、誘電加熱装置の改良およびin situ測定装置の改良に成功した。特に、電磁波を用いてバイオマスや触媒構造変化を直接観測する手法を確立したことにより、分光分析を用いることなく、簡便な方法でリアルタイムに反応を追跡できるようになった。また、触媒とバイオマスの反応性を高める手法として、高沸点溶媒によるソルボリシスやイオン液体による可溶化が有効であることを示した。 さらに、上記で得られた研究成果について、学術論文として報告を進めた。触媒のin situ ラマン測定や、ソルボリシスによる草本性バイオマスや藻類バイオマスの可溶化、イオン液体による結晶性セルロースの可溶化、および、バイオマス加熱装置の改良に関する論文について、Industrial and Engineering Chemistry Researchや、Heliyon、Biomass and Bioenergy、Physical Chemistry Chemical Physics、Green Chemistryなどに掲載され、Front Cover (Green Chemistry)やBack Cover(Industrial and Engineering Chemistry Research、Physical Chemistry Chemical Physics)に採用された。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に進捗のあった改良型誘電加熱装置とバイオマス可溶化手法を用いて、高周波によるバイオマスの反応系の最適化を進める。さらに、in situ Raman、in situ XAFSおよびin situ共振周波数測定などの手法群を駆使して、バイオマス変換反応中の反応過程を直接観測し、反応最適化を加速する。並行して、これまでの研究によって得られた結果を体系的にとりまとめを進め、高周波によってバイオマス変換反応を制御する手法を確立する。 (1) 高周波によるバイオマスの反応系の最適化:モデルバイオマス試料(単糖、二糖、多糖)や実バイオマス試料(イナワラ、木粉)などを対象として、改良型誘電加熱装置、および、バイオマス可溶化手法を適用し、反応系を最適化する。反応過程をHPLCおよびGCなどの従来分析手法を用いて生成物を分析するとともに、 in situ 観測系によるモニタリングを用いて追跡する。反応最適化手法として、実験計画法の一種である応答局面法を用いて、効率的にバイオマスの電界酸化条件の最適化を進める。 (2) 成果のとりまとめと反応制御手法の確立:前年度までの3年間で得られた、電磁波によるバイオマス変換反応加速効果や、物質構造(バイオマス・溶媒・触媒)変化の加速効果を体系的に取りまとめる。電磁波によってバイオマスの変換が促進される機構を提示するとともに、本機構に基づいて変換反応を制御する手法を確立する。
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