研究課題/領域番号 |
17H05051
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
塚野 千尋 京都大学, 農学研究科, 准教授 (70524255)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 合成化学 / 有機化学 / 生理活性 / 全合成 / 全シス置換シクロプロパン |
研究実績の概要 |
2019年度は、天然物シャゲンBの不斉全合成を達成した。これによりシャゲンAの不斉合成の足がかりを得た。また、本全合成により、独自に開発したIr触媒によるアルキリデンシクロプロパンの異性化を鍵とした全シス置換シクロプロパン構築法を確固たるものとした。一方、未解明となっている絶対立体配置の決定を試みたが、天然物の旋光度はほぼ0であり、困難であった。単離グループも天然物の標品を保有しておらず、CDスペクトルの測定も実施したが、比較できないため、絶対立体配置の決定には至らなかった。 多様な縮環系をもつ全シス置換シクロプロパンの合成へ発展するために、アレンのシクロプロパン化による中員環形成について検討した。その結果、既存のRh触媒では実践的レベルで7-9員環構築には適用できないことが明らかになった。 多置換オレフィンのシクロプロパン化と還元的開環の連続反応を基盤とした合成戦略により四環性リコポジウムアルカロイドの複雑骨格の構築に成功し、低収率であるが全合成を達成した。本全合成で得られたサンプルを用いれば、生物活性を評価することが可能となる。不斉リガンドを有するRh触媒でのシクロプロパン化について、エナンチオ選択的な反応が進行する条件を検討したが、容易に入手できる触媒やリガンドは不斉合成に適用できなかった。 Daphniyunnine類の共通骨格を効率的に合成する方法を確立して論文投稿した(研究発表の雑誌論文参照)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、シャゲンBの不斉全合成を達成した。これは世界初の全合成であり、これによりシャゲン類の生物活性発現に重要な構造を解明するための足がかりが得られた。特に、これまで、明らかにされてこなかった絶対立体配置に関する知見は本研究で初めて得られた。これは、シャゲンAの全合成や、天然物の絶対立体配置の決定につながる結果である。 また、多置換オレフィンのシクロプロパン化と還元的開環の連続反応を基盤とした合成戦略を四環性リコポジウムアルカロイドの複雑骨格の構築に発展させて、最終段階に改善の余地があるものの全合成を達成した。この天然物の全合成についても世界初である。 さらに、本年度は、前年度に開発したエナンチオ選択的なブテノリドの立体選択的導入法とavenaolの絶対立体配置の確認を” Enantioselective Acetalization via Dynamic Kinetic Resolution for Synthesis of γ-Alkoxybutenolide by Thiourea-Quaternary Ammonium Salt Catalysts: Its Application to Strigolactones”と題して国際誌(Angewandte Chemie International Edition) に論文投稿した(研究発表の雑誌論文参照)。 以上の点からは、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.シャゲン類の絶対立体配置の問題を解決するために、シャゲンAを不斉全合成する。シャゲンAはBと同様に旋光度は小さいが、絶対立体配置を推定することに利用可能と考えられる。また、抗リーシュマニア活性を有するのはシャゲンAのみであることから、構造活性相関への展開を踏まえて、合成でのみ供給可能な構造類縁体も合わせて合成する。この際にはシャゲンBの不斉全合成経路を最大限活かす。そして、これら生物活性評価を行い、活性発現に重要な構造を明らかにする。生物活性試験については、単離グループの協力を得る予定である。 2.抗HIV活性を示す多環性トリテルペン類のarisanlactone Cは特異な置換パターンを持つ三員環構造を含む。本プロジェクトで独自に開発した全シス置換シクロプロパン構築法を活かして、本天然物の基本骨格の合成へと展開し、抗HIV活性に重要な構造を明らかにする。また、合成した構造類縁体について生物活性試験(抗HIV活性試験)を実施する。本生物活性試験は、共同研究者の京都大学・明里教授に依頼予定である。 3.リコポジウムアルカロイドの四環性骨格の構築法を確立したので、最終工程の収率を改善し、サンプル供給可能な全合成経路の確立を目指す。天然物を合成することができれば、抗腫瘍活性とHIV活性について評価する。
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