研究課題/領域番号 |
17H05055
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
浅井 禎吾 東北大学, 薬学研究科, 教授 (60572310)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 天然物 / 糸状菌 / ポリケタイド / 生合成 / 異種発現 / ゲノムマイニング |
研究実績の概要 |
本研究では、糸状菌のゲノム上からユニークなポリケタイド合成酵素を含む生合成遺伝子クラスターを探索し、それらを麹菌で異種発現することで、新規天然物を創製することを目的として研究を進めている。今回、糸状菌の高還元型ポリケタイド合成酵素 (HR-PKS) に着目して研究を推進した。ゲノムマイ二ングより見出したHR-PKSのアミノ酸配列に基づき系統樹解析を行ったところ、未開拓のHR-PKSからなるクレードを発見した。それらHR-PKSの近傍の遺伝子解析を行い、それぞれ、クラスターを解析したところ、いずれのクラスターにも機能未知の加水分解酵素が含まれていた。そこで、まず、Arthrinium属菌に含まれるHR-PKSクラスターを麹菌で異種発現した。その結果、HR-PKSと加水分解酵素の両方を麹菌で発現させたときのみ生成物が確認された。単離生成後、構造解析を行った結果、34員環と共役ヘキサエンを持つ新規大環状マクロライド化合物であることがわかった。全ての立体化学を決定し、HR-PKSによる生合成機構を推定した。このHR-PKSはアセチルCoAを出発物質として、マロニルCoAによる16回の伸長を行う、糸状菌では最大の繰り返し回数となるHR-PKSであり、また、共役ヘキサエンからなるポリエン構造は糸状菌HR-PKSでは大変珍しい構造であった。さらに、HR-PKSに含まれるKRドメインは、通常とは異なり、D型およびL型の両方に還元することがわかった。以上のように、本研究では、糸状菌のゲノム上から、これまでにないユニークなポリケタイド合成酵素を発見し、また、それ由来の新規天然物の獲得に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度は、当初予定していた遺伝子群の発現では新規天然物が獲得できず、詳細な遺伝子解析に留まっており、計画通り研究が進展していなかった。しかしながら、詳細な遺伝子解析の結果、ユニークな遺伝子資源が見つかっており、今回、それに基づき、候補遺伝子を絞り込み、それらを異種発現することで、目的通り、ユニークなポリケタイド合成酵素の発見ならびに新規大環状ポリエンマクロライドの発見に成功した。今回見出した新しいPKSは当初の計画にはなく、研究遂行中に新たに見出したものであり、かつ、異種発現ならびに天然物の取得まで成功したので、計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していたAドメインから始まるユニークなAT-PKSの探索、機能解析および天然物取得を目指す。これまでのよび調査の結果、AT-PKS由来と考えられる化合物をいくつかピックアップしている。その生産菌について、すでに、候補化合物の単離構造決定を報告したオーストラリアのグループと共同研究契約を締結し、遺伝子資源を利用できるようにした。また、国内のグループとも別の候補化合物について、同様に遺伝子資源を利用できるように共同研究契約を締結している。それらについて、まず次世代シーケンス解析を行い、ドラフトゲノム情報を得たのち、AT-PKSを含む生合成遺伝子クラスターを探索する。それらを順次麹菌で異種発現し、生成物を取得し、構造を特定する。得られた生成物の構造から各酵素の機能を明らかにする。さらに、その情報に基づき、AT-PKSクラスターを探索し、新規類縁体の探索を行う。
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