本研究の最終目標は電位依存性チャネルの電位センサーの電位依存的構造変化の可視化と分子間の協同性の解析である。しかし、そもそも電位センサーをAFMで可視化した例がなく、膜外領域の小さい電位センサーがAFMで観察できるかどうか不明であった。そこで本年度は、電位依存性チャネルの電位センサーが高速AFMで可視化できるかどうかを、安定的に動作しているステージスキャン型の高速AFMを用いて検討した。名古屋大学入江助教から可溶化状態の電位依存性ナトリウムチャネルNavAbの試料提供を受け、マイカ基板上の脂質膜に再構成して高速AFM観察を行った。可溶化状態の電位依存性チャネルを細胞外表面上向きにマイカ基板上に吸着させ、さらに界面活性剤で不安定化した脂質二分子膜を添加し、界面活性剤除去することで基板上のチャネルを脂質二分子膜へ再構成した。脂質種や溶液条件などを最適化したところ、電位依存性チャネルのポアドメインに相当する4つの粒子が四角に並んだ構造と、その周囲にごく小さな粒子が4つ揺らいでいる様子を観察することに成功した。参考としてNavAbと類似の電位依存性Na+チャネルNavCtの結晶構造の細胞外表面に対してAFM画像のシミュレーションを行うと、実験とよく似た構造が得られた。シミュレーション画像とAFM画像を照らし合わせると、ポアドメインの周囲の小さな粒子は電位センサーの二本の膜貫通へリックスをつなぐ短いへリックスに相当しており、ポアドメインと電位センサーの位置関係を高速AFMで観察できることがわかった。さらに、上記の小さな粒子よりもさらに小さな粒子が4つ観察されることがあり、これは電位センサードメインのS4へリックスの末端に由来すると考えられる。S4へリックスは膜電位に応じて浮き沈みすると考えられており、S4が安定的に観察できるようになれば、S4の電位依存的構造変化も観察できると考えられる。
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