研究課題
骨から分泌される線維芽細胞増殖因子(FGF23)は、FGF受容体およびKlothoと複合体を形成し腎臓リン調節機構の中心を担う。しかし、慢性腎臓病(CKD)ではこれらの機構の破綻により、骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)やタンパク質-エネルギー障害(CKD-PEW)へと発展する。近年、急性腎障害発症に対するエピゲノム変化の関与が報告され、CKD発症に関しても同様の可能性が考えられる。CKDモデル動物で血中レチノール濃度の異常な高値による腎機能低下の助長が報告されているが、我々はレチノイン酸(RA)による腎臓のリン再吸収の促進を見出しており、CKDで上昇した血中レチノール濃度によるCKD進行への関与を示唆している。しかしながら、RAによるエピゲノム変化を介したCKD発症・進行への影響は全く不明であり、その解明はCKD患者の生命予後の改善にとって非常に重要である。本研究は、血中レチノール濃度の異常な上昇によるFGF23/Klothoエピゲノム変化を明らかにし、CKD発症を制御する新たな機序の発見および新規治療法開発のための基盤確立を目指す。初年度の研究で明らかにしたことを以下に示す。全身麻酔下で8週齢雄マウスの腎臓5/6を摘出し(CKDモデル)、1週間後からRA受容体アンタゴニスト(RAR-ant)を9週間投与し、以下の結果を得た。大腿骨重量はsham群と比してCKD群で減少し、RAR-ant投与により増加した。各群の握力、腓腹筋重量、筋断面積および筋タンパク質量(MyHC fast、slow)を測定した結果、3つの項目全てにおいてCKD群で低下し、RAR-ant投与により回復した。腎臓のリン代謝関連遺伝子発現をReal-time PCR法で解析した結果、CKD群で低下したKlotho mRNA発現量はRAR-ant投与により上昇傾向を示した。
2: おおむね順調に進展している
初年度は、各ステージにおけるCKD発症に対するビタミンAの影響を検討し、どのステージ(性成熟期、繁殖期、老齢期)が今回の実験に適しているかを確認することができた。さらに、CKD時にみられる血中レチノール濃度の上昇状態への対策は、大腿骨重量、骨格筋の重量、筋力およびタンパク質発現、さらに腎臓の遺伝子発現に対してある程度効果があることを明らかにしたので、実験は概ね順調であると考えている。
初年度は、どのステージがCKDの発症・進行に対するビタミンAの影響を検討するのに適しているのかということ、そしてCKD時にみられる血中レチノール濃度の上昇への対処がCKDの症状(CKD-MBDやCKD-PEW)を軽減する可能性を示すことができた。次年度は、そのCKDでみられる血中レチノール濃度の上昇によるCKDの進行に腎臓におけるKlthoや骨のFGF23のエピゲノム変化(DNAメチル化、ヒストン修飾)、またはその他のリン代謝調節因子が関与しているかどうかを網羅的に評価する。繁殖期のCKDモデルマウスにRARアンタゴニストを9週間投与し、大腿骨のFGF23、腎臓のKlothoのエピゲノム変化をペプチドマイクロアレイやChIP-Seq法で解析する。
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