研究実績の概要 |
近年加齢やそれに伴う糖代謝異常など、認知症症状に対して進行的に作用するリスク要因の存在が注目されており、近年の大規模疫学研究により、認知症の進行過程を左右する因子群として重要視されている(Livingston et al., The Lancet Commissions, 2017)。また認知症の病態進行過程において、脳萎縮に至る前に生じる初期の脳内変化として神経細胞シナプスの機能低下が知られている(Jack et al., Lancet Neurol., 2013)。このような背景から、加齢や糖代謝異常とシナプス機能との関係性に多くの関心が寄せられている。しかしながら加齢や糖代謝異常がどのように中枢神経系に作用し、認知機能障害を誘導するのか詳細な分子メカニズムは不明である。 本研究では認知症の中核症状である認知機能障害及び周辺症状である過剰攻撃行動発現に着目し、加齢および糖代謝異常を示すモデル動物を用いて認知機能と易怒性攻撃行動について解析を行った。高脂肪食負荷した糖代謝異常マウスを用いた解析では、認知機能の低下が確認された。同様に糖代謝機能に変化の見られる加齢動物においても、空間認知記憶行動の低下が見られることをY字型迷路課題により明らかにし、加えて対物攻撃行動による易怒性が上昇していることを見出した。さらに認知症の中核様症状および周辺様症状の際に必要とされる海馬・前頭葉神経細胞シナプス部位でのAMPA型グルタミン酸受容体やコフィリンなど機能的タンパク質の可塑的変化に対し、糖代謝シグナルの制御破綻がどのように影響するか検討を行ってきた。加えて同部位におけるミクログリア活性を介した脳内炎症過程において検討を試みた。
|