研究課題
減数分裂は生殖細胞が精子や卵子になる際に起きる特別な細胞分裂の様式であり、その過程では遺伝情報が半減する非常にユニークなプロセスを有し、そのとき父方ゲノムと母方ゲノムのミクシングが生じることから多様な遺伝型の精子や卵子が生じる。この減数分裂は進化的には古くから存在し、酵母からヒトまで保存されたプロセスであるが、興味深いことに、いつ減数分裂を開始するか(いつ精子や卵子をつくるか)は種においてその制御を担う分子がまったくといっていいほど保存されていない。また性によっても男女で開始するタイミングがまったく異なっており、その全容はいまだ多くの謎が残っている。申請者はマウス ES細胞でMYCのパートナー因子をコードするMax遺伝子をノックアウトすると、ES細胞から本来生殖細胞でしか起こらないはずの減数分裂が誘導される現象を見出したことから、Maxは生体内においても減数分裂を制御するキーファクターではないかと考えた。本研究計画では哺乳類の生殖細胞においてMaxが減数分裂制御因子であるかどうかをマウスモデルで実証することを第一の目的としている。これまでにタモキシフェン依存的にコンディショナルにMax遺伝子を生殖細胞のみでノックアウトできるマウス(Max cKO)と、逆に過剰発現できるMaxノックインマウス(Max KI)を作成した。通常生殖細胞が減数分裂を起こす際は、胎児期においてはメスのみで生殖細胞は減数分裂を開始するが、オスではその時期は減数分裂は起こらない。そこで生殖細胞が本来減数分裂に入るまえの時期にタモキシフェンを投与して解析した結果、E12.5のメスの生殖細胞ではより減数分裂関連遺伝子の発現上昇が見られた。またメスだけでなく本来この時期では減数分裂を起こさないはずのオスの生殖細胞でも減数分裂関係遺伝子の上昇が見られた。
3: やや遅れている
Max cKOマウスがタモキシフェン投与によって確かにMaxがノックアウトされているかどうかを確かめるための条件検討に予想外に時間がかかった。生殖細胞マーカーのOct4の下流でCreERT2を発現するOct4dPE-CreERT2がノックインされたマウス(Oct4-Cre +/+)とMax第四エキソンがloxPで挟まれたマウス(Max cKO +/+)を掛け合わせてMax cKO+/+, Oct4-Cre+/+のダブルホモマウスを作成しようと試みたが、なぜかOct4-Cre+/+になると子供が生まれず、Oct4-Creは+/-のヘテロで維持するしかなかった。このためOct4-Creがポジティブであるembryoをその都度genotypingする必要が生じたこと、またOct4-Creがどのタイミングでどれだけの量のタモキシフェンを投与すればいいのかをさまざま条件検討する必要があった。またMaxをノックアウトするとMaxの第四エキソンが欠失するが、そのフォームのmRNAは検出することができるが、タンパク質レベルで検出することが抗体の性質上できないため、Maxがノックアウトされた細胞をシングルセルレベルで見分けることが出来ない問題に直面した。そこで最終的な効果をmRNAの発現変動をみることで特定せざるをえないことも進捗に影響を与えた。しかしながら、Creが効くとGFPが消失するマウスと掛け合わせることによって、現在E8.5にタモキシフェン投与することによりE12.5で約6割の生殖細胞でCreERT2が効くことを確認している。
Max cKOマウスもMax KIマウスの条件検討はほぼ完了したので、今年度は実際にどのような影響がMaxのgain-of-functionおよびloss-of-functionにより生じるかを解析する。これまでのところmRNAレベルではMax cKOでは減数分裂遺伝子の発現が上昇することを確認したが、今後はトランスクリプトーム解析により遺伝子発現のグローバルな発現変動に着目する。またMax cKOにより細胞学レベルで減数分裂様の変化が本来起こらないタイミングor場所で生じるかどうかを検討したい。またMaxはMycのパートナー因子であるほか、Mgaとパートナーを組むとPRC1.6複合体を形成し、遺伝子発現抑制に働くことも示されているため、このMycとMgaの相異なる作用機序が体細胞分裂から減数分裂への切り替え制御機構とどの様な関係があるのかの解明すべく、現在はES細胞でMyc/Maxの変異型ペアーの導入実験や、Mgaノックアウト実験によりその遺伝子発現変動を解析中である。
すべて 2018
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Stem Cells
巻: Sep;36(9) ページ: 1355-1367
10.1002/stem.2849.