研究課題
これまでの実験結果から、腸内細菌叢による病原細菌への感染抵抗性は、乳児期の腸内細菌叢では低く、成獣期の腸内細菌叢では高いことが明らかになっている。また、この乳児の腸内細菌叢による腸管病原菌に対する定着抵抗性(コロナイゼーションレジスタンス:以下CR)の低下は、成獣マウス腸内の優勢菌群であるクロストリジウム目菌群の欠如によることも、腸内細菌叢のメタゲノム解析により明らかになった。実際に、乳児の腸内細菌叢を腸管内に定着させた成獣マウスにクロストリジウム目菌群を経口投与することで、腸管病原菌に対するCRが高くなり、病原菌感染による腸管組織傷害も抑えられたが、別の優勢菌群であるバクテロイデス目菌群の経口投与ではそのような効果は見られなかった。このように、クロストリジウム目菌群は、腸管病原菌に対する宿主のCRを強化するが、クロストリジウム目菌群のみでは無菌マウスの腸管内で効率的に増えることができず、乳児の腸内細菌叢の存在によってその増殖が促進されることを観察していた。今年度は以下の研究成果を得た。1) 腸管内容物のメタボローム解析の結果、乳児の腸内細菌叢から産生される代謝物質(コハク酸)が、クロストリジウム目菌群の腸管内での増殖を促進することが明らかになった(研究成果を論文に掲載することができた)。2) 新たなプロジェクトとして、腸内細菌と、腸内細菌の組成や代謝に影響を与える食事に着目し、両者の組み合わせによる腸管病原細菌の定着・増殖抑制効果を検証した。その結果、食事と腸内細菌が腸管病原菌感染に影響を与えている可能性を示唆する成果を得た。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画していた実験計画が申請中に順調に進み、論文として掲載することができたので、現在は腸内細菌と、腸内細菌の組成や代謝に影響を与える食事に着目し、両者の組み合わせによる腸管病原細菌の定着・増殖抑制効果の検証を行っている。昨年度は、食事が腸管病原細菌感染に与える影響を検証するため、飼料Aと飼料B摂取マウスにおける腸管病原細菌感染に対する感受性を比較した。その結果、飼料A摂取群では飼料B摂取群と比べ、腸管病原細菌感染後の死亡日数が有意に長くなることが観察された。また、各飼料摂食群における腸管病原細菌後の病態の違いが無菌マウスでは確認されなかったことから、飼料Aによる腸管病原細菌感染の制御には腸内細菌が関与していることが示唆されている。
今年度には食事と腸内細菌による腸管病原細菌に対する感染抵抗性の増強効果を見出すことができたので、今後は腸内細菌叢や腸内代謝産物を解析するとともに、腸管感染抵抗性に関わる腸内細菌の単離を試みる。
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Science
巻: 356 ページ: 315-319
10.1126/science.aag2029