研究課題
単純ヘルペスウイルス(HSV)は代表的な大型DNAウイルスであり、ヒトに脳炎、性器ヘルペス、眼疾患など、多様な病態を引き起こす。抗HSV剤が開発された今日においても、脳炎患者の70%は社会復帰できないか死亡する。また、性病としてもHSVの重要性は高く、国内の性感染症報告数において、クラミジアに続く第2位である上、根治不能のため患者は垂直感染・水平感染の不安と直面している。さらに、世界市場におけるHSV感染症の医療費は、年間数千億円と試算されている。したがって、HSVは医学上極めて重要なウイルスであり、HSV研究の重要性は明らかである。本年度は、昨年度に引き続き、宿主リン酸化シグナル経路の1つであるmTOR経路のHSV病態発現機構における役割を解析した。その結果、mTORC2がHSV感染時のTLR3経路の活性化に必須であることを見出した。家族性ヘルペス脳炎患者のゲノムワイド関連解析(GWAS)において、TLR3、TRIF、TBK1およびIRF3等の1型インターフェロン産生経路を形成する宿主因子における一塩基多型(SNP)が認められ、一連のSNPは、1型インターフェロン産生経路を不活性化することで、HSV脳炎の発症に寄与すると考えられていたが、本研究において、mTORC2を介した細胞骨格の制御により、TLR3の細胞内局在が本自然免疫応答を司ることが明らかとなった。また、TLR3-mTORC2経路の活性により、マウスモデルにおけるHSV脳炎の治療が可能であることも示唆された。一連の知見は、HSV脳炎における宿主免疫応答の分子機序のさらなる解明と、それに基づく治療戦略の立案を支持することが期待される。
2: おおむね順調に進展している
(i) 宿主プロテインキナーゼ(PK)の1つであるmTORC2が、HSV感染時の宿主免疫応答を司る分子メカニズムを培養細胞レベルのみならず、生体レベルにおいても解明することができた点、(ii) HSVがコードするPKと宿主PK間の相互作用に関して、ユニークな表現系が見えつつあること、(iii) 全宿主PKをカバーするgRNA libraryを用いたCRISPR screeningにおいて、HSV感染に伴う細胞死に抵抗性の細胞クローンが、複数得られていることから、本研究課題は、おおむね順調に進展していると考えられる。
本年度の解析により、見出されたHSVがコードするPKと宿主PK間の相互作用に関して、さらなる解析を進めることで、HSV病態発現機構に関して新たな分子機序の解明を試みる。また、一昨年より着手していたHSVがコードするPKによる宿主細胞基質の解析に関しても、生体レベルの解析に着手していく。加えて、昨年に引き続き、リン酸化プロテオーム解析により得られたHSV感染細胞におけるリン酸化情報に関して、バイオインフォマティクス解析を積極的に取り入れることで、様々な角度から新規知見を見出していく。
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https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/Kawaguchi-lab/KawaguchiLabTop.html