大型DNAウイルスの大部分は、プロテインキナーゼ(PK)をコードしている。周知の通り、PKによる蛋白質のリン酸化反応は、全細胞機能の約70%以上を制御する。増殖を宿主細胞に依存するウイルスにとって、様々な細胞機構を制御しうるPKを保持することは好都合である。単純ヘルペスウイルス(HSV)感染はPK活性を著しく活性化することから、1980年代にはHSV PKの存在やHSV PKによる高度な宿主細胞制御機構が予見されていた。そして、今日ではHSV PKがHSV増殖機構や病態発現機構のマスター・レギュレーターの1つであることが解明されていたが、HSV PKが宿主細胞をハイジャックする分子機構(=HSV PK宿主細胞基質制御機構)の大部分は不明なままであった。そこで、本研究では、プロテオーム解析によりHSV PKの宿主細胞基質の大規模探索を実施し、細胞内輸送に重要な宿主因子が、HSV PKの新規基質であることを見出した。同定した宿主因子のリン酸化部位は、エンドソーム膜へのアンカーを司る領域に隣接しており、その機能発現に必須であることが明らかとなった。また、本宿主因子の欠損細胞およびリン酸化を阻害した形の変異体を導入した細胞において、HSVの子孫ウイルス産生能が低下した。本知見は、プロテオーム解析により同定された宿主因子が、HSV PKの機能的な宿主細胞基質であることを示すと考えられる。そして、一連の解析より、HSV PKによる宿主細胞基質制御機構の一端が解明されつつあるとも考えられる。
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