研究課題/領域番号 |
17H05071
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
鍋倉 宰 筑波大学, 生命領域学際研究センター, 助教 (80550095)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 免疫学 / ナチュラルキラー細胞 / 免疫記憶 / 記憶NK細胞 / NK細胞 / 記憶細胞分化 / ウイルス感染 / サイトメガロウイルス |
研究実績の概要 |
ナチュラルキラー(NK)細胞はウイルス感染細胞やがん細胞の排除に必須の免疫細胞である。NK細胞は標的を傷害して死滅する短寿命の細胞だと考えられていた。しかし近年、マウスサイトメガロウイルス(MCMV)感染後、活性化受容体Ly49Hを発現するNK細胞は長期生存型記憶NK細胞に分化する事が示された。しかし記憶NK細胞分化のマスター制御因子は同定されていない。本研究では、研究代表者が作出したNK細胞時期特異的YFP発現(NKp46-CreERT2-Tg-Rosa26-YFP)マウスを用い、記憶NK細胞分化のマスター制御因子の同定を試みる。 上記マウスにMCMVを感染させた後タモキシフェンを投与し、MCMVに応答するNK細胞をYFPにて標識した。感染10日目に活性化Ly49H+ NK細胞及びLy49H- NK細胞を、感染28日目にLy49H+記憶NK細胞及びLy49H-記憶様NK細胞を可視化した。これらNK細胞サブセットとナイーブLy49H+ NK細胞及びLy49H- NK細胞をセルソーターを用いて純化した。純化したNK細胞サブセットに於けるRNA-seqデータを筑波大学NGS解析プラットフォームにて取得し、標準化した遺伝子発現データを得、以下の条件にて記憶NK細胞分化のマスター制御因子の候補を抽出した。その中で既知の機能及び生命情報科学的アプローチから最も有望な遺伝子(遺伝子X)を記憶NK細胞分化のマスター制御因子の候補を選択した。 1.活性化Ly49H+ NK細胞でナイーブLy49H+ NK細胞よりも発現が上昇する。 2.Ly49H+記憶NK細胞で高発現が維持される。 3.Ly49H+記憶NK細胞にて他のLy49H- NK細胞サブセットよりも高発現である。 4.核移行シグナルを持つ 5.DNA結合ドメインを持つか、或いはパスウェイ解析にてNK細胞機能への寄与が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNA-seqデータ取得のために抽出したRNAの品質管理の結果から、各NK細胞サブセットの高度な純化が成功し高品質のRNA-seqデータが取得出来た事が確認された。RNA-seqデータ解析によるマスター制御因子の候補を抽出する際、上記「研究実績の概要」の絞り込み条件に於ける発現上昇及び高発現の定義を標準化遺伝子発現に於いて2倍とし、DNA結合ドメインと転写因子結合ドメインを持つ分子を抽出したが、既知或いは機能が推測される転写因子が該当しなかった。従って、発現上昇及び高発現の定義を標準化遺伝子発現に於いて1.5倍として再解析し、更に条件を「DNA結合ドメインと転写因子結合ドメインを持つか、パスウェイ解析にてNK細胞機能への寄与が示唆される遺伝子」とし、マスター制御因子の候補を抽出した。抽出された遺伝子のうちの1つ(遺伝子X)が、過去の報告にて以下の特徴を持つ事を見出した。 1. 細胞質と核内に存在し、細胞活性化にて核内移行する 2. Ly49H活性化シグナルを担うシグナル伝達分子DAP12及びDAP10の下流シグナル伝達分子と結合する事が実験的に示されている、或いは生命情報科学的に相互作用が示唆される 3. 記憶NK細胞分化に重要な役割を果たす活性化受容体DNAM-1の下流シグナル伝達分子によりリン酸化される事が実験的に示されている 4. 定量的RT-PCRにて、ナイーブLy49H+ NK細胞と比較して活性化Ly49H+ NK細胞で発現が上昇し、Ly49H+記憶NK細胞にて高発現が維持され、更に他のLy49H- NK細胞サブセットよりも高い発現が確認される 遺伝子Xの核内での機能及び相互作用する転写因子・転写制御因子・クロマチン修飾因子は未だ明らかでない。しかし遺伝子Xは抽出された遺伝子の中で明らかに最も有望である事から、記憶NK細胞分化のマスター制御因子の候補として選択した。
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今後の研究の推進方策 |
上記研究成果にて選択した記憶NK細胞分化のマスター制御因子の候補遺伝子Xに関し、遺伝子X欠損マウスを保持する海外研究者(英国オックスフォード大学)と連絡を取り、共同研究として遺伝子X欠損マウスを入手する事が確約出来た。従って、当該研究計画の年次計画に従って、以下の実験計画を試みる 1.遺伝子X欠損NKp46-CreERT2-Tg-Rosa26-YFPマウスの作出 遺伝子X欠損マウスとNKp46-CreERT2-Tg-Rosa26-YFPマウスを交配し、遺伝子X欠損NKp46-CreERT2-Tg-Rosa26-YFPマウスを作出する。 2.遺伝子X欠損NK細胞の記憶NK細胞の分化実験 (1) 遺伝子X欠損及び野生型NKp46-CreERT2-Tg-Rosa26-YFPマウスに対し、MCMV感染後にタモキシフェンを投与し、記憶NK細胞の存在比率と表現型解析から、遺伝子Xの記憶NK細胞分化における影響を評価する。 (2) 遺伝子X欠損NKp46-CreERT2-Tg-Rosa26-YFPマウスの作出までの間、遺伝子X欠損マウスと野生型マウスの混合骨髄キメラマウスを作出する。これらマウスのNK細胞の再構築を確認した後、機能的なLy49Hの発現を欠損するDAP12欠損マウスをレシピエントマウスとし、混合骨髄キメラマウス由来の遺伝子X欠損Ly49H+ NK細胞と野生型Ly49H+ NK細胞をドナーNK細胞として共移入した後にMCMVを感染させる。これらマウスにてドナー遺伝子X欠損Ly49H+ NK細胞の増殖及び記憶NK細胞分化を評価する。
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