研究課題
慢性疼痛は痛み入力を始めとする感覚と感情の2つの側面からなる。これらの相互作用が慢性疼痛を増強していると考えられるが、感覚と感情がいかに相互作用しているかの神経分子機構は不明である。研究代表者のこれまでの研究結果から、前帯状回のシナプス長期増強が、感覚と不安を含む感情形成のシナプス可塑性である可能性が明らかになりつつある。本研究では、感覚と感情が相互作用を形成する慢性疼痛の神経分子機構の解明を目的とした。前帯状回は視床および扁桃体から投射を受け、シナプスを形成している。これまでの解剖学的手法を用いた先行研究では、前帯状回の細胞は視床の背内側核から投射を受け取ることが明らかとなっている。さらに視床の背内側核は、その軸索が前帯状回の脳梁末端付近を通過することが明らかになっている。従って、前帯状回の第II/III層の錐体細胞からホールセルパッチクランプ記録を行い、刺激電極を脳梁末端に留置して10 Hzの頻回電気刺激を与えた。その結果、脳梁末端における電気刺激は、多くの第II/III細胞からの記録でpolysynapticな誘起性電流を発生させた。これはすなわち、視床から前帯状回第II/III層の錐体細胞に投射する線維は、視床細胞ー前帯状回第II/III層細胞間で直接的にシナプスを形成しているよりもむしろ、視床細胞ー前帯状回内ー前帯状回第II/III層細胞間を直接的および間接的に視床ー前帯状回の第II/III層間でシナプスを形成している可能性が考えられる。
3: やや遅れている
異動に伴い購入予定であった遺伝子改変動物の導入が遅れているため、遺伝子改変動物を用いた実験が進んでいない。その一方、慢性疼痛と不安の両方に関わるシナプス可塑性である前帯状回シナプス前終末の長期増強の分子機構について調べた。ユビキチンプロテアソームシステムがこのシナプス前長期増強を制御していることを新たに見つけた(Koga et al., J Neurosci 2017)。
光遺伝学的手法と遺伝子改変動物の導入を急ぎ、前帯状回における投射選択的なシナプス長期増強の形成とその仕組みを明らかにする。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件)
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