研究課題/領域番号 |
17H05083
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
木村 航 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (60452182)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 心筋再生 / 低酸素シグナル / 細胞周期 / 心筋細胞 |
研究実績の概要 |
心疾患は全世界における死因の第一位を占めており,有効な心臓再生法の開発は極めて重要な研究課題である.哺乳類の成体には心臓再生能がほとんどない.これは大部分の心筋細胞が細胞周期に入る能力を持たないためである.一方で胎仔期や新生仔期の心筋細胞には細胞周期に入る能力が保たれており,胎仔・新生仔には心臓再生能が備わっている.しかし心筋増殖能は生後すぐに失われる.われわれは,哺乳類の心筋細胞の細胞周期制御において,低酸素シグナルが中核的な役割を果たすことを明らかにしてきた.具体的には,新生児期の再生能をもつ心臓では,増殖可能な心筋細胞は酸素代謝を低く保っていることを示した.つづいて成体にわずかに存在する増殖能を保った心筋細胞は低酸素シグナルを活性化していること,そして成体のマウスを長期間酸素分圧7%の環境に置くことで,心筋梗塞後に心筋細胞増殖による心機能回復を誘導することに成功した.一方,成体の心筋細胞での低酸素シグナルの機能はまだ十分理解されていない.我々は酸素代謝および低酸素シグナルによる心筋細胞の細胞周期制御機構を解析し,代謝制御因子,ストレス応答因子,そして低酸素シグナルにより心筋細胞の細胞周期停止を誘導もしくは維持する機構を同定した.今後はこれらの因子の阻害や活性化により,損傷心における機能回復が誘導できるか検討する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はこれまでにミトコンドリア代謝の制御に関連する因子に対しての介入により,新生仔の心筋細胞の細胞周期停止を延長することが可能であることを明らかにした.さらに,その下流で活性化されるストレス応答因子の阻害でも同様に心筋細胞の細胞周期停止の延長が可能であることが明らかになった.逆にこれらのストレス応答経路を活性化することで増殖能を維持した心筋細胞でも細胞周期停止が起こることが判明し,ストレス応答の細胞周期制御における重要性が明らかになった.また低酸素シグナルの活性化により心筋細胞の細胞周期再エントリーが起こることを示す結果を得た.
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今後の研究の推進方策 |
今後はミトコンドリア代謝制御およびストレス応答に関わる因子の薬理学的もしくは遺伝学的な阻害・活性化によって梗塞心での心筋細胞増殖,そして心機能回復が誘導されるかどうか検討する.さらに低酸素シグナルが心筋細胞増殖において必要かどうかについて,心筋細胞特異的ノックアウトマウスを用いることで検討する予定である.これらの結果を受け,さらに薬理学的な介入による心筋細胞再エントリー誘導についての可能性について検討することを予定している.
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