研究課題
II型肺胞上皮細胞は肺胞の組織幹細胞としての性質を持ち、分化すると自己複製能や多分化能を失い、SFTPCなどの特異的分化マーカーの発現が低下することが知られる。ヒトiPS細胞からII型肺胞上皮細胞への分化誘導は、培養条件の検討により分化効率が改善し、定期的に継代を繰り返すことにより6ヶ月以上にわたる長期培養が可能となった。また、ヒトiPS細胞由来のSFTPC陽性細胞は形態学的に不均一であることから1細胞レベルでの遺伝子発現解析を進め、複数のサブタイプに分けられることを発見し、それらが発生学的機序に基づく不均一性であることを明らかにした。その成果の一部については論文として発表した。発生学的な分化の現象はがん細胞で指摘される分化状態との関連性が示唆されているため、細胞不均一性の制御機構について1細胞レベルで明らかにする必要があると考え、分化制御の観点からも調査を続けている。次に細胞移植モデルの確立に向けて、細胞のストックを作成したり、ヒトiPS細胞由来の肺胞上皮細胞を用いたオルガノイドの作成方法を検討した。免疫不全マウス(NOGマウス)の肺にオルガノイド移植を試みたところ、移植した細胞は肺胞には到達するものの安定したII型肺胞上皮細胞の生着を確立することは困難だった。その原因を考察すると、特に線維芽細胞はII型肺胞上皮細胞の分化を防ぎ自己複製能を維持する機能を担っていると考えられた。線維芽細胞によるニッチ機能を検討するため、線維芽細胞なしでもII型肺胞上皮細胞が分化誘導され、それが維持される条件を検討した。サーファクタント蛋白質の産生能を指標に試験管内でのスクリーニングを進めたところ、II型肺胞上皮細胞は線維芽細胞なしでも平面よりは三次元培養の方が安定することが分かり、複数の因子を組み合わせることでII型肺胞上皮細胞が維持されやすくなることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
ヒトiPS細胞から分化誘導したII型肺胞上皮細胞の性状についての解明は1細胞レベルから明らかになった。さらに、これまで未解明だったII型肺胞上皮細胞を取り巻く複雑なニッチの役割も詳細な条件検討を通して明らかとなりつつあり、これらの成果は細胞移植に用いる肺胞オルガノイドの開発に役立つ成果と考えられる。一方で肺胞オルガノイドのマウスへの移植モデル確立にはまだ時間がかかっており効率よく定着させるためには、II型肺胞上皮細胞の分化状態を、生着に適した状態に十分制御する必要があり、この部分を深めていくことが、がん化における分化状態との関連性の解明にもつながり、移植した細胞の安全性にも寄与できると考えている。当該研究課題は論文発表にいたる成果もすでに得られていることから概ね順調にすすんでいると判断した。
引き続きヒトiPS細胞由来のII型肺胞上皮細胞の分化制御機構を明らかにして安全な形で移植し定着可能な状態に制御するため、① iPS細胞由来II型肺胞上皮細胞の不均一性制御機構の解明、② フィーダー細胞不要なヒトiPS細胞由来のII型肺胞上皮細胞の長期培養の安定化、③ 肺がんリスク評価のためのがん化プロセスを再現する方法の開発、④ 肺胞オルガノイドを免疫不全マウスに移植した後の分化制御方法の開発 の4点について、重点的に取り組む。具体的には①ではトランスクリプトーム解析に加え、エピゲノム制御についての解明を進める、②では分化制御機構についてフィーダー細胞ありなしでの違いを調べ、培養条件の改良により安定した長期培養法を開発して品質の良い肺胞オルガノイドを作成する。③ではがん化プロセスの初期変化を再現することにより1細胞レベルで評価できる実験系を立ち上げ、安全性評価の指標を探索する。④では腎被膜下は定着することの分かった肺胞オルガノイドについて分化状態の評価とその制御機構について検討する。
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Nature Methods
巻: 14 ページ: 1097~1106
10.1038/nmeth.4448