研究課題/領域番号 |
17H05084
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
後藤 慎平 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (50747219)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | オルガノイド / 肺胞 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
肺胞上皮細胞のリスク評価系の構築に向けて、がん化の初期変化で障害されると考えられるII型肺胞上皮細胞の分化状態の維持機構を明らかにするため、健常者由来iPS細胞から分化誘導した肺胞オルガノイドを用いて、II型肺胞上皮細胞からI型肺胞上皮細胞への分化制御機構の解明を進めた。エピゲノムレベルでの制御機構まではまだ結論が出せていないが、遺伝子発現解析のレベルにおいては、ヒトiPS細胞から分化誘導した肺胞オルガノイドについて、線維芽細胞を含む場合と含まない場合で上皮細胞を1細胞レベルで比較したところ、線維芽細胞と共培養した場合にはSFTPC陰性でI型肺胞上皮マーカー遺伝子を発現する細胞クラスターが認められ、線維芽細胞を含まない方法で分化誘導した肺胞オルガノイドにはそのような細胞クラスターは認められなかった。また、線維芽細胞と共培養した際に得られるiPS細胞由来I型肺胞上皮細胞について、公共データベースを用いてヒト肺組織から単離されたI型肺胞上皮細胞のトランスクリプトームと比較したところ、遺伝子発現パターンにおいて高い類似性を認め、iPS細胞由来の肺胞オルガノイド内に認められるI型肺胞上皮マーカー陽性の細胞クラスターはI型肺胞上皮細胞に相違ないと考えられた。さらにiPS細胞由来のI型とII型肺胞上皮細胞のトランスクリプトーム解析から、II型肺胞上皮細胞の分化状態の維持に重要と考えらえるシグナル伝達経路の阻害を試みたところ、I型肺胞上皮細胞への分化が促進されることも確認した。これにより従来、難しかったin vitroでのII型肺胞上皮細胞が分化状態を維持するメカニズムが解明できつつあり、これを基礎データとして今後の肺胞オルガノイド移植の安全性を検討していきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトiPS細胞から分化誘導したII型肺胞上皮細胞とその分化細胞であるI型肺胞上皮細胞について1細胞レベルでのトランスクリプトームを定義することができ、シグナル伝達経路を制御することで分化状態をコントロールできる可能性が明らかになってきた。エピゲノムレベルでの解明やがん化モデルの構築はまだ達成できていないが、肺胞オルガノイドの移植に必要な安全性評価の基礎となる知見は着実に得られてきている。肺胞オルガノイドのマウスへの移植モデルの安全性確立に向けては、これまでは主に上皮細胞成分に注目してきたが、肺胞オルガノイドに含まれる間葉系細胞についてもその分化誘導法の確立が必要でありその安全性についても検討していく必要がある。現在必要とされる技術の課題も明確に把握できたので、最終年度はその解決に向けて集中的に取り組む方針である。よって、概ね順調にすすんでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
① 肺胞オルガノイド移植に用いる間葉系細胞の分化誘導法の開発 これまでのiPS細胞由来肺胞オルガノイドの作成には肺胞上皮細胞成分だけでなく、肺胞上皮細胞の分化を促進し長期培養を安定化させるためのフィーダー細胞となる間葉系細胞が必要だった。特に研究用に利用可能な胎児肺由来の肺線維芽細胞を利用してきたが、安全かつ制約のより少ない肺胞オルガノイド移植を実現するためには同一ドナー細胞由来から肺線維芽細胞と同等の性質をもった線維芽細胞を分化誘導する必要があると考えられる。令和2年度は肺胞上皮細胞を分化誘導し長期培養を可能にするためのiPS細胞由来肺線維芽細胞と代替できる間葉系細胞の分化誘導法の開発に取り組む。 ② iPS細胞由来肺胞オルガノイド細胞の分化状態の維持機構の解明 肺胞オルガノイド移植法の安全性確立には①で開発するiPS細胞由来の間葉系細胞も含めたリスク評価が必要で、同一ドナー由来の肺胞オルガノイドに含まれる細胞成分の特徴を上皮細胞と間葉系細胞のそれぞれを解明し、安全性評価のための基本情報とする。 ③ 免疫不全マウスへの肺胞オルガノイド移植によるiPS細胞由来II型肺胞上皮細胞の維持機構の解明 従来の方法で分化誘導した肺胞オルガノイドの効率的な移植方法と、①で開発する間葉系細胞を含めた肺胞オルガノイドの移植方法の開発を進め、II型肺胞上皮細胞の安定性の評価とがん化の有無がないか引き続き検討を進める。
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