ヒトiPS細胞由来のII型肺胞上皮細胞を肺胞オルガノイドと培養プレートでそれぞれ培養して1細胞遺伝子発現解析により比較すると、プレート上の平面培養では、オルガノイド培養に比べてI型肺胞上皮細胞に正常分化する細胞群もいる一方で、肺線維症の時に見られるような異常に分化した病的な肺胞上皮細胞が同時に出現することが明らかとなった。このことからII型からI型肺胞上皮細胞への安全かつ正常な分化を促進するためには適切な間葉細胞や環境が必要となる可能性が考えられた。また、I型とII型肺胞上皮細胞の混在したオルガノイド構造を作るには、従来は胎児肺線維芽細胞を必要としてきたが、同一ドナー由来で胎児肺線維芽細胞を代替できる可能性のあるiPS細胞由来の間葉細胞の分化誘導法を開発し、肺胞上皮細胞の異常分化の有無について検討した。一方、ヒトiPS細胞から段階的に分化誘導したCPM陽性呼吸器幹細胞を用いて、あらかじめ肺障害を起こした免疫不全マウスの肺に移植する条件を検討したところ、少なくとも2か月にわたってヒトiPS細胞由来の呼吸器細胞が生着できることを確認した。また定着した細胞は腫瘍性変化を来すことなく、HE染色では周囲のマウス肺組織と見分けがつかない程度まで生着することも分かった。さらに定着したヒト由来細胞について、免疫染色と遺伝子発現解析を行なって分化状態を調べた。特にマウス肺に生着したヒト由来細胞を単離することもできたので遺伝子発現を解析したところ、移植したヒトiPS細胞由来呼吸器幹細胞は、マウス生体の肺環境に適応して気道や肺胞のそれぞれの細胞成分に分化しうることや、調べる限りにおいては安全性を否定する問題は起きていないと考えられた。
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