リソソームは細胞小器官(オルガネラ)のひとつで、リソソーム酵素により様々な基質を分解している。リソソームはオートファジーにより細胞内から運ばれる物質やエンドサイトーシスで細胞外から運ばれる物質の分解に寄与している。リソソーム病はリソソーム酵素欠損により引き起こされる遺伝性の疾患であり、その病態メカニズムはリソソーム酵素による分解能の障害のみならずオートファジーやエンドサイトーシスといったリソソームを中心とした細胞内小胞輸送・分解系の障害として包括的に理解することが必要である。本研究では、リソソーム酵素のみならずリソソーム機能に関連する遺伝子群の網羅的なノックアウトによりリソソームと細胞内小胞輸送の障害の共通点をあぶり出すことを目的としている。 本年度までにセルラインでの遺伝子ノックアウト系列はほぼ完成し、約30種類のノックアウト細胞系列に関して解析を行った。既に着手していたオートファジー機能の解析においては、一部のライソゾーム酵素欠損細胞においてのみ明らかな障害が認められ、これは既報とは異なる結果であった。また、電子顕微鏡において形態を観察したところ、ノックアウト細胞系列でのリソソームの形態異常は患者細胞においてこれまで報告されてきたリソソーム蓄積像と共通する姿をしており、さらにノックアウト細胞系列でのオートファジーの障害と形態学的な異常には相関が見られた。オートファジーの障害が脂質の蓄積と関連することが前年度までに示唆されていたため、ノックアウト細胞系列の脂質を薄層クロマトグラフィーで検討したところ、一部の細胞で変化が見られた。これを定量的かつ体系的に評価するため、質量分析機を用い、リソソーム病に特化した脂質蓄積の解析系を確立した。これらの成果から、リソソーム病の病態の一部が明らかになり、さらにリソソーム機能の解析に有用なツールの樹立が出来たと考えられる。
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