研究実績の概要 |
前年度に引き続き、双極性障害患者及び健常者から研究同意を得て、DNAサンプリングを実施した。そのうえで、高解像度アレイCGHを用いて双極性障害患者1700例と健常者2300例を対象とした全ゲノムCNV解析を行った。quality controlsを実施し、高精度で頻度1%未満のCNVデータ(10キロベース以上のサイズ)を得た。臨床的意義をもつ、すなわち、発症への関与が示唆される稀なCNVを双極性障害患者の約6%で同定し、健常者(3.5%)と比べて統計学的に有意に頻度が高かった。この中には、双極性障害を含む精神疾患との関連や神経発達との関連が既に示唆されていたPCDH15, DLG2, CACNA1C, NRXN1, DISC1等の遺伝子の欠失が含まれていた。特にPCDH15(プロトカドヘリンをコードする遺伝子で、アッシャー症候群の原因遺伝子の1つ)は双極性障害との関連を示唆する知見を得た。 次に、病態パスウェイを同定するために、CNVデータに基づいて遺伝子セット解析を実施した。具体的には、gene ontology(GO)の遺伝子セットを用いて(健常者CNVと比較して)患者CNVが有意に集積する遺伝子セットを、ロジスティック回帰分析を用いて検討した。その結果、17個の遺伝子セットが有意(FDR q < 0.1)となった。このセットの中には、脳発達、クロマチン修飾、脂質代謝に関連したものが含まれ、双極性障害の病態に関与することが示唆された。 最後に、上述のPCDH15欠失を有する双極性障害患者2名からiPS細胞を樹立し、グルタミン酸作動性あるいはGABA作動性神経細胞に分化誘導したうえで、健常者の同細胞と比較をした。その結果、患者由来の両神経細胞で、樹状突起の短縮やシナプス数の減少を認め、PCDH15欠失の細胞レベルでの影響を見出した。
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