研究実績の概要 |
アルファ線やオージェ電子等の高LET(線エネルギー付与)荷電粒子を放出する放射性核種を活用した標的アイソトープ治療は、腫瘍部への線量付与が大きいため細胞致死効果が高く、かつ飛程が短いために正常組織への影響を低減できることから、有望な手法として注目されている。本研究では、がん細胞へ取り込まれ放出されるアルファ線やオージェ電子の局所線量分布イメージングが可能な計測技術の開発を目的としている。 昨年度に確立した手法を用いて、アルファ線放出核種であるアスタチン211を結合させた抗体薬(トラスツズマブ)を、ヒト胃がん細胞を肝臓に転移させたモデルマウスへ静脈導入し、動態時間毎(1, 3, 24時間)の切片上のアルファ線線量分布の実測を複数回行った。得られた大量のデータの解析を順次進めている。 現在用いているCR-39固体飛跡検出器は化学エッチング処理が介在するため、ライブセルでの線量評価が難しい。このため、ライブセルイメージングに向けた実験系の確立を目指し、イオン飛跡を光学的にイメージングできる蛍光飛跡検出器として銀活性リン酸塩ガラスの高LET荷電粒子に対する性能評価を行った。この結果、銀活性リン酸塩ガラスの発光強度は既存の酸化アルミニウムよりも強いため高速にイメージングでき、水中LETで5keV/um以上の高LET荷電粒子の蛍光トラックを計測することに成功した。性能評価において確認したフェーディング効果の対応については今後の課題である。 一方、オージェ電子の計測実験では、昨年に引き続き、酸化アルミニウム蛍光飛跡検出器を用いた実験を繰り返し行った。銅64(塩化銅溶液)から放出される放射線を、検出器内の深さ線量分布を求めることにより、オージェ電子とベータ線を弁別することに成功した。
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