研究実績の概要 |
脳梗塞後の無菌的炎症に際しては、虚血壊死に陥った脳細胞から放出される内因性炎症惹起因子(DAMPs: danger associated molecular patterns)が炎症の惹起に重要である。脳梗塞後に生じるDAMPsとしては、High mobility group box 1(HMGB1)、ペルオキシレドキシン(PRX)、S100A8/A9などのタンパク質が知られている。これらのDAMPsを蛍光標識して、脳梗塞巣から抽出した細胞に添加したところ、主に好中球以外の骨髄球系細胞(mononuclear phagocyte)の細胞内に取り込まれていることが判明した。マクロファージ細胞株を用いてDAMPsを細胞内に取り込む機能について検索した結果、スカベンジャー受容体MSR1、MARCOが重要であることが判明した。脳梗塞後に生じたDAMPsはこれらの受容体を介して、マクロファージの細胞内に取り込まれ、リソソームに運ばれ分解排除されているものと考えられた。 脳梗塞の発症1日目に比較すると、発症3日目のマクロファージはMSR1を高発現しており、DAMPsを効率的に排除する炎症収束性の細胞であった。脳梗塞モデルマウスにビタミンAやその誘導体を投与すると、脳内のマクロファージにMSR1の発現を誘導することができた。特にタミバロテン(AM80)はDAMPsの排除を促進し、炎症の収束を早める脳梗塞治療剤となり得ることを証明した(Shichita, et al. Nature Medicine 2017)。
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