脳梗塞後の炎症は、脳浮腫を悪化させ神経機能予後を悪化させる。脳梗塞後の炎症は病原体が関連しない無菌的炎症の典型例であり、虚血壊死に陥った大量の脳細胞死に伴い、細胞内の分子が細胞外に放出されて、周囲の免疫細胞を活性化することによって炎症が惹起される。本年度は脳内の炎症惹起因子として新たなタンパク質を同定することに成功した。これらのタンパク質は、虚血ストレスによって神経細胞内で発現され、虚血壊死(ネクローシス)によって細胞外に放出されて、周囲のマクロファージや好中球を活性化して炎症性サイトカインの産生を誘導しているものと考えられた。ウサギ免疫によって中和抗体を作成して、脳梗塞モデルマウスに投与したところ、著明な神経保護効果が得られた。 脳梗塞後の炎症は神経修復にも関連する。脳梗塞後の炎症が修復へ転換するメカニズムの解明のため、脳梗塞内の骨髄球系細胞を単離し、詳細な遺伝子発現解析を行った。脳梗塞発症1日目の炎症期においては、これらの細胞は炎症性サイトカインを産生しているが、発症3~6日目の修復期においては、炎症惹起因子を排除するスカベンジャー受容体MSR1を高発現し、神経修復因子IGF1を高発現する。このような修復担当細胞の誘導には炎症が関与すると考えられ、修復を誘導する脳内環境が成立しているものと考えられる。脳内の分子群を検索し、神経修復へと転換する分子と作用機序の解明を継続している。
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