本年度は、脳梗塞における新規の炎症惹起因子としてDJ-1タンパク質を同定し、DJ-1タンパク質を中和することによって脳梗塞後の炎症を抑制して、神経症状が改善できることを証明した(PLOS Biol in press)。脳抽出液を培養マクロファージに添加すると炎症性サイトカインの産生が見られることを発見し、このような炎症誘導活性をもつ画分を質量分析によって解析した結果、DJ-1タンパク質が脳組織に内在する炎症惹起因子であることを発見した。実際にDJ-1タンパク質についてリコンビナントタンパクを作製し、骨髄由来マクロファージに添加した。その結果、DJ-1タンパク質が強力な炎症性サイトカインの産生誘導能を有することが判明した。脳梗塞巣ではDJ-1を含むデブリ(組織の残骸)が多数見られ、脳内に浸潤したマクロファージの細胞表面上で接する像が観察された。DJ-1タンパク質は、細胞内では虚血ストレスによって発現誘導され抗酸化作用によって細胞保護的に機能することが知られているが、虚血壊死した細胞からは細胞外へと放出されて周囲の免疫細胞を活性化し、炎症性因子の産生を誘導することにより脳梗塞後の炎症を惹起すると考えられた。抗DJ-1抗体をウサギ免疫によって作製し脳虚血モデルマウスに静脈内投与したところ、抗DJ-1抗体を投与したマウスでは発症7日目の脳梗塞体積が有意に縮小し、神経症状の改善が観察された。脳梗塞周囲の組織において神経細胞死が軽減しており、脳内に浸潤した免疫細胞による炎症性サイトカインの産生が減少していた。これらのことから、脳梗塞巣における虚血壊死した神経細胞から放出されるDJ-1タンパク質は、炎症を惹起するDAMPsとして機能すると考えられた。
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