研究課題/領域番号 |
17H06087
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
渡部 直樹 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (50271531)
|
研究分担者 |
大場 康弘 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (00507535)
杉本 敏樹 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 准教授 (00630782)
中井 陽一 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 専任研究員 (30260194)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | 星間塵 / 分子進化 / 表面反応 / 重水素濃集 / 核スピン転換 |
研究実績の概要 |
レーザーアブレーションによる試料作製法を用い,擬似星間塵の一つであるアモルファスカーボン表面を作製し,その表面における水素原子,分子の振る舞いを調べた。試料表面を10~数10ケルビンに冷却し,そこへ水素分子,もしくは水素原子を照射した。その後,それらの表面吸着状態を光誘起脱離・共鳴多光子イオン化法を用いて分析した。水素分子の吸着エネルギー及び,水素原子表面拡散の情報を得た。本成果はAsrtophysical Journalに掲載された。 表面のOHラジカルが電子を捕獲しOH-を生成すると、下層のH2Oからプロトンを引き抜き、下層にOH-を生成する。その繰り返しによりOH-によって負の電荷が運ばれる。この発見は,氷に負の電荷が流れるという,これまで知られていなかった氷の電気化学的性質を示す画期的な成果である。 氷表面の高感度分析の新たな手法としてCs+イオンピックアップ法を開発した。従来の類似タイプの装置よりおよそ2~3桁程度高い検出感度を得ることに成功した。これにより,氷表面に微量に存在するラジカルなどの振る舞いを実験的に調べることが可能になった。 氷表面におけるOHラジカルの吸着サイトおよびそれらの吸着エネルギーを、量子化学 計算を用いて導き出した。吸着サイトや吸着エネルギーは水素結合の数によって数多く存在し、合計18サイト が見つかり吸着エネルギーも0.1eV以下から0.7eVを超えるものまで存在することが分かった。 実験研究で得られている氷表面上でのH2の核スピン転換速度を理論モデルに組み込み,星間塵表面における核スピン転換が分子雲における化学進化に与える影響を評価した。 新たな手法により,6員環構造からなる炭素質物質を創成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画としてあげていた,炭素質表面における水素原子・分子の振る舞いを明らかにし,氷表面での化学物理プロセスについては,得られた実験結果を量子化学計算,化学進化モデル計算と併せることにより,広範な知見が得られている。また,氷表面の高感度分析のためのCs+イオンピックアップ法の開発の成功や,氷中をOH-負イオンの移動により負電荷が運ばれる現象の発見など,当初目標を超える成果も得られた。その他,他機関の共同研究者(杉本,中井)の研究の進展を含め総合的に判断して,概ね順調であると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに構築した装置群を用いて、引き続き【分子生成プロセス】,【重水素濃集プロセス】,【表面における分子のオルソ-パラ存在度比 決定機構】のすべての項目で研究を進める。具体的には以下に挙げる項目に取り組む。 ・分子生成および重水素濃集プロセスでは,特にリン(P)含有分子(PH3など)に着目した実験を行う。PH3そのものは有害であるため,リン化カルシウムと水を装置内で混合し微少量作製する手法を用いる。PH3生成に至る反応の際に脱離する,反応性脱離の効率をもとめ,さらにPH3における,H-D,D-H置換反応を観測して,星間塵表面における重水素濃集の寄与を見積もる。 ・星間空間で主要な有機硫黄化合物(H2CS,OCS,CH3SHなど)とH/D原子との反応による反応性脱離,重水素置換/付加反応。 ・和周波発生分光の方法論を拡張し,2光子共鳴(差周波共鳴)により水素分子の振動・回転運動の強制励起が可能な3次非線形ラマン分光法に基づく新規な表面分光スキームを開発する。そのために,既設のフェムト秒和周波分光システムをベースとし,水素分子の振動・回転運動をオルソ・パラ状態別に強制励起するために必要な近赤外光発生系の構築をすすめる。
|