研究課題
本プロジェクトは、CEP(carrier envelope phase)の直接制御他、量子光学の最先端技術を走査トンネル顕微鏡(STM)と組み合わせ、サブサイクル(電場一周期内)の時間分解能とSTMの空間分解能を併せ持つ新たな極限計測法を開発し、新たな科学領域の開拓を試みるものである。初年度は、予定より早く、微弱な信号を計測する為の環境を整備して新しいシステムを構築し、まず、本手法実現の為の基盤技術となる探針直下の電場波形を実験的に評価する方法の開発に成功した。併せて、分子を探針と基板の間に挟み高精度で自在に構造を制御しながら伝導特性を測定する手法の開発や、THz-STMを用い、1t-TaS2の相転移の~5psの緩和過程を観察することに成功した。昨年度は、これら成果を更に展開し、サブサイクル分光の基本となるサブサイクルパルスのより詳細な形成・制御、に加え、微弱信号を安定して取り出せるよう、レーザー光の繰り返し周波数を上げる改良等を行った。同システムを用い、2H-MoTe2の光励起キャリアーダイナミックスの光強度依存性をSTM像と併せて解析する事に成功した。時間分解マルチプローブSTMの開発も進め、TMDSヘテロ構造の局所ダイナミックス測定に成功した。時間分解マルチプローブSTMシステムは世界初で他に無い。本年度は、励起状態の電圧・THz電流過渡特性を計測し評価する手法を開発した。C60分子層構造/Auを試料として用いる事で、C60層中に電子を光励起で注入し、サブピコ領域での運動をサブサイクル電場を利用して可視化にする事に初めて成功した。また、1ps、30fsのモノサイクルTHzパルス光列の形成・制御を可能にする新しいシステムを構築し、探針増強により中赤外領域で入射電場の4300倍の増幅が得られていることを確認した。長時間に亘って非常に安定した電場が得られた例は他に無い。
1: 当初の計画以上に進展している
2017年度は、(1)励起システムの構築、(2)測定方法の開発、(3)多探針STMの検討、(4)試料の準備と評価、を主な課題として研究を進めた。CEPロックされた広域の高強度励起光が可能なレーザーを導入し、励起システムを完成させた。CEP制御-STMでは探針直下の波形の位相制御が重要で、探針直下の電場波形を正確に定めることが必要不可欠であるが、光電子放出、トンネル電流により探針直下でのTHz波形を精密に測定する方法を開発する事に成功した(特許出願済み)。多探針STM測定の準備としては、WSe2のダイナミックスの時間分解測定を行うことに成功した。2018年度は、(1)サブサイクル時間分解走査トンネル顕微鏡法の実験を開始し、2H-MoTe2の光励起キャリアーダイナミックスを解析する事に成功した結果は、ACS Photonicsの表紙を飾った。(2)世界で初めて成功した時間分解マルチプローブSTMの新システムと実験結果はAPEXに掲載され、(3)新しい変調方法の開発と同手法を用いた新しい時間分解システムも論文掲載されて特許出願済み。(4)スピン計測まで含めた時間分解測定が表面感度の高い実験である事を示した結果は、PCCPに掲載され表紙を飾った。(5)試料として用いる分子構造制御の結果はNanoscaleのHot Articleに選ばれた。2019年度は、(1)高繰り返し光源を用い、C60層中に電子のみを光励起で注入した系を対象として、励起状態の過渡的な運動をサブサイクル電場を利用して測定し可視化にする事に初めて成功した。(2)サブサイクルの位相を用いた新変調方法の開発も済ませ、長時間安定した30fsパルス光の生成にも成功した(論文発表済み)。現在、サブサイクル電場波形を利用してトンネル電流の過渡応答を測定・解析する、局所励起状態の超高速分光測定技術の開発を進めている。
2019年度までに、STMギャップ近傍における近接場の直接評価やCEPの精密制御等、課題の基盤技術を確立し、併せて、新しく整備した温度や湿度の揺らぎを抑える高機能クリーンブース中に新しいOPCPAレーザー系を設置して、1ps、30fsのモノサイクルTHzパルス光列の形成・制御を可能にする新しいシステムの構築を終えた。多探針STMについても、光スポットの精密な制御を可能にする為のアクティブ除振機構の導入やシステムの改良を終え、スポットトラッキング等により安定化させた励起系と融合することで、世界発の多探針時間分解測定に成功にした。THz-STMでは、実空間・時間分解イメージング計測を可能にし、新OPCPAシステムでは、STMとの融合開発を終えた。光励起電子ダイナミックスを可視化し、欠陥を含まない理想的な領域で移動度を求めるなど、これまでに無いデータを得る事を可能にする手法を実現した。新OPCPAシステムでは、超高速局所分光の準備を終えた。STMでは、トンネル電流の印加電圧依存性(I-V曲線)を調べる事で、局所的な電子状態を解析する。昨年度末より光励起を組み合わせたI-V曲線計測の開発に取り組み、THz電圧を瞬時バイアス電圧とすることで、I-V曲線の過渡応答を調べる手法を実現した。既に、C60層状構造を対象として、LUMOまたはより高い準位に励起された電子のダイナミックスをに過渡的なI-V曲線の変化として可視化する結果を得ている。これまで光電子分光等や電子線回折を用いた励起状態のダイナミックス計測は成されてきたが、STMを用いた局所領域での励起状態過渡応答の実空間計測は例が無い。新システムを組み合わせることで、同手法の超高速分光への展開を図る。また、多探針STMの整備も進めており、これら技術を融合することで、引き続き、世界をリードし本分野を牽引する成果を目指す。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (41件) (うち国際学会 21件、 招待講演 11件) 備考 (2件)
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