研究課題/領域番号 |
17H06090
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
和田 道治 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (50240560)
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研究分担者 |
宮武 宇也 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (50190799)
森本 幸司 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, チームリーダー (00332247)
羽場 宏光 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, チームリーダー (60360624)
加治 大哉 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 技師 (00391912)
西村 俊二 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 先任研究員 (90272137)
小浦 寛之 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (50391264)
石山 博恒 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, チームリーダー (50321534)
岸本 忠史 大阪大学, 核物理研究センター, 特任教授 (90134808)
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研究期間 (年度) |
2017-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 重元素の起源 / 質量測定 / 超重元素 / MTOF質量分光器 / イオントラップ / 高周波イオンガイド |
研究実績の概要 |
本年度の重要な成果は、初の超重元素同位体(257Db)の精密質量測定に成功したことである。理化学研究所の加速器施設において、208Pb(51V,2n)257Db反応で生成されたDb同位体は、気体充填型反跳核分離器GARISによってビームと分離され、200mbar相当のHeを充填し60Kに冷却したガスセルで熱化し、高周波カーペットによって引き出されイオントラップに捕集された。イオントラップには15ms毎にDb3+イオンと85,87Rb+が交互に蓄積され、そのイオンバンチは多重反射型飛行時間測定式質量分光器(MRTOF)に入射されその飛行時間の比から質量を決定した。Dbの検出率は1日2イベント程度と低いため、背景事象との明確な弁別が必要であり、そのために新規に開発したαToF検出器が極めて有効に機能した。これは、ToF検出器のイオン衝撃板をSi検出器に換えたもので、イオン衝突によるToFとそれに遅れて生ずるα崩壊のα線エネルギーと遅延時間を同時に測定できる。257Db3+イオンのToF事象と相関があるα線事象は14事象あり、その内3個はエネルギーと遅延時間から211Poによるものと判定した。11個の真の事象の85Rb+イオンとの飛行時間比スペクトルから、257Dbの質量は257.10634(27)u(予備的解析値)と1ppmの精度で決定できた。この結果は、この領域の超重元素の原子番号を同定するに十分な精度である。 一方、同装置で252Cfの自発核分裂線源を用いてオフラインで希土類元素の中性子過剰同位体の測定を開始し、網羅的測定に一定の寄与ができることを確認した。 KISS装置のMRTOFもオンライン実験を開始し、核異性体を質量で同定することに成功している。 新規にBigRIPS用のZD-MRTOFを立ち上げ、質量分解能570000を達成している。 これらの装置を駆使して、重元素の起源の解明につながる網羅的質量測定を遂行していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超重元素や陽子過剰核に適した気体充填型反跳核分離器(GARIS-II)、白金の起源にあたる中性子数N=126付近の中性子過剰核に適した KISS装置, ユニバーサルな原子核に適用可能なBigRIPS/ZeroDegree装置においてMRTOF質量分光器が稼働し、象徴的な初めての超重元素の精密直接質量測定が実現したことは、プロジェクトの順調な進行を裏付けるものである。 技術的にも、冷凍型ガスセルによる高効率捕集、α-ToF検出器開発による稀事象の正確な検出および半減期測定能力検証、KISS装置の20keVイオンビームのトラッピングのためのガスセルクーラーバンチャー(GCCB)の開発およびそれによる荷電逓倍機能と不純物分子破壊機能の発見、MRTOFのより高い運動エネルギーで周回による記録的な質量分解能(570,000)の達成など、幾つもの重要な発明があった。加速器施設のマシンタイムが期待していたとおりには得られていないのが残念ではあるが、マシンタイムがある限りいくらでも測定が勧められる体制ができたことは、今後の明るい展開を約束するものである。
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今後の研究の推進方策 |
最大の問題点は、本研究の旗艦実験であるモスコビウム、ニホニウムの質量測定に必須のCa48ビームが、試料の入手困難のために実現見通しが立っていないことである。国際共同研究、特別の予算措置、自前での安定同位体分離機構の開発など可能な限りの手段を講じている。 一方、金・白金の起源となる中性子過剰原子核の網羅的質量測定は、BigRIPS/ZeroDegree装置に整備したZD-MRTOFを使って広範囲の測定が、他の実験と並行して行うことができる仕組みをつくり、施設からの許可、上流の実験者との契約を結ぶことができており、これからの短い期間で大きな成果を上げることを予定している。 新しい実験技術の開発により、質量に加えて半減期の測定やレーザーと組み合わせた核モーメントの研究、核異性体の研究、遅発粒子崩壊の研究にも発展を期待できるようになった。
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