研究課題/領域番号 |
17H06092
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三浦 雅博 大阪大学, 先導的学際研究機構, 特任教授 (20183626)
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研究分担者 |
中山 健一 大阪大学, 工学研究科, 教授 (20324808)
藤内 謙光 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30346184)
武田 洋平 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (60608785)
平野 康次 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (70532696)
西井 祐二 大阪大学, 工学研究科, 講師 (70773787)
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研究期間 (年度) |
2017-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 有機合成化学 / 炭素水素結合活性化 / カップリング反応 / 有機機能性材料 |
研究実績の概要 |
本研究では、以下の三つの主要課題を設定している。本年度はそれぞれの課題に対し以下の研究を実施した。 (1)新規遷移金属錯体触媒と酸化剤の協働機能による芳香族化合物の酸化カップリング:芳香族基質の効率的直接カップリング反応を可能とする触媒系の開発研究において、昨年度までに見出した、ロジウム錯体触媒と銅塩あるいは銀塩酸化剤を組み合わせた触媒系を用いた、インドールやベンゾチオフェンのような複素環化合物のアルケニル化反応を検討した。改良触媒系を用いると複素環上での反応が生起し、特に含硫黄置換基を持つ基質の反応が効率よく進行することを見出した。一方で、昨年度見出したかさ高いスルフィド触媒を用いると、芳香族化合物のハロゲン化に加え、生理活性化合物の合成に有用なトリフルオロメチルチオ化が位置選択的に達成できることを明らかにした。 (2)直接クロスカップリングによる平面型および非平面型高度縮環(ヘテロ)芳香族化合物の合成と機能創出:昨年度までに開発したパラジウム触媒を用いる脱水素型閉環反応を用い、非平面型の光学活性アザヘリセン類の合成に成功した。合成したアザヘリセン類は、顕著な円偏光発光特性を示した。一方、イリジウム触媒を用いる同様の手法を用いて光学活性ビスベンゾカルバゾール骨格を持つビナフチル誘導体を合成し、その固体状態における円偏光発光特性を明らかにした。 (3)錯体化学的アプローチに基づく炭素ー水素結合活性化のメカニズム解明:新規に開発した、ロジウム触媒を用いた安息香酸類と炭酸ビニレンの脱水素・脱炭酸を伴う環化によるイソクマリン合成の反応を検討した。想定されるいくつかの中間体錯体種を基に計算化学により反応機構の探索研究を行った。その結果、炭素―水素結合切断とそれに続く炭酸ビニレン挿入後に、求核的ロジウムシフトを含む機構で進行することを示唆する計算結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従って、まず第二周期遷移金属錯体触媒反応の検討を行った。まず、炭素-炭素結合形成反応を検討し、ロジウム触媒を用いる複素環化合物の位置選択的ビニル反応を開発した。次いで、かさ高い有機スルフィド触媒を用いる芳香族化合物のトリフルオロメチルチオ化(C-S結合形成)法を開発した。また、ロジウム触媒を用いたインドール類のビニル化生成物を用いた、天然物に見られる中員環誘導体の合成を達成した。パラジム触媒反応では、直接的閉環により円偏光発光特性示す非平面型のジベンゾカルバゾールの合成法を開発した。標的化合物にピリジン型窒素を埋め込むと、興味深いことに、円偏光発光の異方性値が顕著に高くなることがわかった。また、溶液に酸を添加すると発光色が青色から緑色に変化し、異方性値がさらに増大した。他にも円偏光発光特性を示すベンゾカルバゾール骨格を含む光学活性ビナフチル誘導体を合成した。さらに自発的光学分割特性を示す環状テトラヘテロアリレン誘導体を見出した。一方、安価な銅触媒を用いる反応では、フェナントロリン型配向性基を用いる芳香族チオ化やセレノ化反応を開発した。反応機構研究においては、ロジウム触媒を用いた安息香酸類と炭酸ビニレンの脱水素・脱炭酸を伴う環化によるイソクマリン合成の反応を検討した。想定されるいくつかの中間体錯体種を基に計算化学により反応機構の探索研究を行った。その結果、炭素―水素結合切断とそれに続く炭酸ビニレン挿入後に、求核的ロジウムシフトを含む機構で進行することを示唆する計算結果が得られ、反応の全体像を合理的に説明した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)上述のようにロジウム、パラジウム、銅を含む様々な遷移金属触媒の調製とその触媒能調査を継続的に行い、令和2年度においても炭素-水素結合の切断を含む新たな直接的炭素結合形成法や環形成法の開発に成功している。触媒系のさらなるファインチューニングや新たな配位子の設計・合成をさらに検討し、より効率的な触媒系の確立を目指す。一方で、硫黄を含む有機触媒の利用検討も行い、直接的ハロゲン化法やトリフルオロメチルチオ化法を開発している。そこで、金属触媒反応に加え、有機触媒を利用した芳香族化合物の誘導体化法の効率化検討を併せて検討を行う。 (2)錯体触媒系を用いた平面型及び非平面型の縮合芳香族炭素環及び複素環形成反応による電子共役材料の構築研究を継続して行う。これまでに蛍光、リン光、円偏光発光のような興味深い発光特性を示す含窒素、含酸素、含硫黄多環複素環化合物類の合成を達成している。それらの知見をもとに、さらに高効率発光材料として有望な縮環化合物の創出を目指す。 (3)炭素ー水素結合活性化や結合形成反応反応における中間体の単離・同定や量子化学計算による機構研究を継続して行う。新たに見出した、ロジウム、イリジウム、および銅触媒反応系について、反応機構について検討し、目標である炭素ー水素結合活性化化学の学理を深化させる。
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