研究課題/領域番号 |
17H06094
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
幾原 雄一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (70192474)
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研究分担者 |
柴田 直哉 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (10376501)
石川 亮 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20734156)
溝口 照康 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70422334)
栃木 栄太 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (50709483)
松永 克志 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20334310)
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研究期間 (年度) |
2017-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 原子・イオン / 格子欠陥 / ダイナミックス / TEM/STEM / その場観察 |
研究実績の概要 |
本年度の主たる研究成果は下記の通りである。 1. 電子線高速走査ユニットの設計:走査透過型電子顕微鏡(STEM)の時間分解能を向上させるため、電子線走査ユニットの設計を行った。この際、512x512ピクセルの画像を30フレーム/秒以上で取得することを要求条件として走査速度とフライバックタイムを試算したところ、走査速度は100nm/pix以下、フライバックタイムは10us/pix前後にする必要があることがわかった。この試算を参考に試作機を作製し性能評価を行った結果、32フレーム/秒の時間分解能を達成した。 2. 精密試料作製法の検討:本年度に導入した集束イオンビーム式試料加工装置を用い、各種その場観察用環境制御デバイス上に試料片を固定および薄膜化する方法を模索した。荷重負荷デバイスを用いた実験においては、試料は十分に薄膜化されており、原子分解能を達成可能であることが分った。 3. 粒界・界面の原子構造解析:酸化物を中心とした材料系において粒界・界面の原子構造の解析を行った。特にイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)の粒界構造および粒界組成の解析において顕著な成果が得られた。エネルギー分散型X線分析(EDS)STEM法によりΣ5(210)、Σ5(310)、Σ9、Σ13粒界の局所組成を解析したところ、Σ5(210)粒界においてはバルク部分と比較し組成の違いがほぼ見られないのに対し、それ以外の粒界においてはZr4+が減少し、Y3+およびO2+が濃化していることが明らかとなった。Y3+イオンはZr2+サイトを置換し正味-1価のイオンとして存在していると考えられるため、粒界には負のイオンが濃化していると解される。このことより、Σ5(210)粒界は電気的に中性、その他の粒界は正に帯電していると考えられる。本結果は粒界帯電現象の粒界方位依存性を実証したものであり、学術的に極めて重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 電子線高速走査ユニットの設計、2. 集束イオンビーム式試料加工装置を用いた精密試料作製法の検討のいずれの項目においても当初の計画通りに進行しており、次年度に計画しているSTEM内での各種実証実験を予定通り実施できる見込みである。3. 粒界・界面の原子構造解析においては、国際学術論文発表を中心としてYSZ、Al2O3、ZnO、SrTiO3などの粒界・界面構造に関する新しい知見を報告することができ、一定の成果が認められる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は主に下記の項目を重点的に進める予定である。 1. 電子線高速走査ユニットの実証実験:初年度に設計した電子線高速走査ユニットの実機を作製し既存のSTEMに組込む。種々の走査速度、フライバックタイムの条件下において時間分解能、取得像の精度、安定性等の点から性能評価を行う。 2. 環境制御デバイスの駆動試験:初年度に引続き集束イオンビーム式試料加工装置を用いた試料作製法の検討を進める。環境制御デバイスとして、加熱、荷重負荷および電場印加デバイスを選択する。適宜STEM内において試料状態の確認およびデバイスの動作試験を行う。 3. 粒界・界面の構造解析、局所物性測定:酸化物を中心とした材料系において各種粒界・界面の原子構造解析を引続き行う。さらに局所物性を評価し、原子構造と機能特性との相関性を明らかにした上でダイナミクスが発現する局所構造を探索し、原子・イオンダイナミックスの観察対象を絞り込む。
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