研究課題/領域番号 |
17H06097
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
嶋田 一夫 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (70196476)
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研究分担者 |
上田 卓見 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (20451859)
竹内 恒 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (20581284)
西田 紀貴 千葉大学, 大学院薬学研究院, 教授 (50456183)
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研究期間 (年度) |
2017-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 核磁気共鳴法 / 膜タンパク質 / 動的構造 |
研究実績の概要 |
GPCRのシグナル選択性の解明:β2アドレナリン受容体 (β2AR) について、常磁性緩和促進(PRE)効果を用いることにより、作動薬結合状態における溶液構造を可視化することに成功した。この結果から、逆作動薬結合状態では離れて存在していたTM5, TM6 上のGタンパク質相互作用残基が、作動薬結合状態においては1 つのクラスターを形成しており、このことが作動薬結合状態において β2AR がG タンパク質と相互作用できる構造的な要因であることが明らかとなった。また、交換モンテカルロ法により、各種リガンド存在下における β2ARの構造平衡の状態数、量比および交換速度を同定した。μオピオイド受容体について、G蛋白質改変体およびアロステリックリガンドとの複合体を形成に伴う、メチオニン残基のNMRシグナルの変化を観測した。GPCRキナーゼのメチオニン残基のNMRシグナルを観測して、帰属した上で、β2AR添加に伴う変化を観測した。 イオンチャネルにおける電流制御機構の解明:昨年度までに構築したBRET実験系を用いて、GIRKとGαβγとの複合体構造モデルを検証した。Gαi3の配列の一部をGIRKと共役しないGαqに置換したキメラタンパク質を用いたBRET実験から、複合体中の主な結合部位であるGαi3のαAヘリックスが選択性を決定していることが裏付けられた。 多剤耐性システムの機能解明:変異実験とNMRを用いた動的構造解析により、輸送活性に直結すると思われるpH依存的な動的構造変化を誘起する責任残基を同定した。またこのことにより、pfMATEのプロトン対抗輸送による基質輸送モデルを提唱することができた。またpfMATEと協同すると思われる多剤耐性転写因子について発現、精製を構築し、立体構造解析に着手した。加えて、病原性細菌由来の多剤耐性転写因子についても、その転写調節機構を明らかにし、病原体における多剤耐性システムの機能メカニズムについて理解を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
GPCRのシグナル選択性の解明:当初予定していた β2ARの活性型構造における原子間距離の情報の取得およびNMRシグナルと合致する構造平衡モデルの構築について、いずれも達成することができた(Nat.Chem. Biol. 2020)。また、当初計画通り、オピオイド受容体にG タンパク質アナログが結合した状態、およびGPCRキナーゼと β2ARが結合した状態のNMRスペクトルの取得を行った。さらに、当初予定になかった、アロステリックリガンドの結合に伴う μORの構造変化の観測にも成功した。 イオンチャネルにおける電流制御機構の解明:当初計画通りPRE法を用いてGIRKとGαβγとの複合体構造を決定し、またBRET法を用いた細胞内での相互作用残基の検証と合わせて、GIRK開口のファミリー選択性を決定する部位を決定できた。また、13C間接観測軸の周波数選択励起を利用したHSFPT法を開発し、従来の手法では検出困難であったKirBacチャネルのマイナーコンフォメーションの存在を定量することにも成功するなど、想定以上の成果も上がっている。 多剤耐性システムの機能解明:当初計画通り、輸送活性に直結するpH依存的に動的構造変化を誘起する責任残基を同定し、プロトン対抗輸送による基質輸送モデルを確立することができた。またpfMATEと協同と思われる多剤耐性転写因子について、立体構造解析に着手した。さらに、病原性細菌由来の多剤耐性転写因子についても、その転写調節機構を明らかにし、論文発表につなげるなど、想定以上の成果も上がっている。
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今後の研究の推進方策 |
GPCRのシグナル選択性の解明:GPCRによるバイアスシグナル機構を解明するために、昨年度までに帰属が完了した残基のNMRシグナルを利用して、β2アドレナリン受容体が、アレスチンシグナルをより強く活性化することが知られているリガンドと結合した状態の構造解析を進めて、バイアスリガンド結合状態のGPCRに特徴的な動的構造を同定する。また、オピオイド受容体にバイアスリガンドやアロステリックモジュレーターが結合した状態や、ケモカイン受容体CXCR4にタンパク質リガンドであるSDF-1が結合した状態にも解析対象を拡張することで、多様なGPCRにおける動的構造の共通性や相違点を抽出し、GPCRの機能発現機構の包括的な理解を目指す。 イオンチャネルにおける電流制御機構の解明: 脂質組成依存的なKcsAのK+イオン透過制御機構の解明を目指するため、KcsA膜貫通領域の疎水性アミノ酸同士の相互作用を変調した変異体を設計している。今後はこれらの変異体を用いて脂質組成を制御したナノディスク中においてKscAに存在する2つのイオン透過ゲート(選択性フィルター、ヘリックスバンドルクロッシング)の動的構造解析やKcsA変異体の単一チャネル電流の解析を行い、KscAのK+イオン透過機構を解明する。 多剤耐性システムの機能解明:強制的に内向き開口状態を作る変異体などとの比較を行うことで、構造平衡下にある各構造の特徴づけをおこない、提唱した輸送モデルの強化を図る。また、pfMATEと協同する多剤耐性転写因子と思われるタンパク質について、その立体構造を決定するとともに、ポケットの形状から結合しうる薬剤の予測と相互作用解析を行う。さらに、pfMATEの発現を制御しうることを検証するため、pfMATEのオペレーター領域のDNA配列との相互作用解析を行う。
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