研究課題
環境物質の同位体置換分子種(アイソトポログ)の自然存在度を計測して、地質、生物、人為の各プロセスを精密に解析し、その相互作用で決まる地球表層環境を統一的に診断する方法創出の研究を開始した。アイソトポログには、分子内同位体分布(PSIA)、非質量依存同位体分別(MIF)、多重同位体置換(Clumped)の3つの置換モードがある。これら全ての先端計測解析が唯一可能な本グループは、その強みを生かし、要素ごと、および3 要素を融合した異次元のアイソトポログ計測法を構築し、世界標準とし、各プロセスとその相互作用を解析し、地球表層環境診断を行っている。昨年度の紫綬褒章受章などに続き、今年度も代表者、分担者は国内外で栄誉ある表彰を受けている。高分解能同位体質量分析計の導入やフッ化法、レーザー分光やNMRとの相互校正など、本研究チームが包括的に計測法の開発ができていることで、目標を超える進展があった。標準物質の作成や、国外の3つの同位体置換モードに特異的に強いグループともよく情報共有で来ているため、国際校正もスムーズに準備できており、一部はすでに実行している。計測法の開発に加えて、各プロセスの解析に必要な試料の入手や調整なども、バイオマーカーとしてのアイソトポログ計測に必要な試料量に応じて、大腸菌の培養や、様々な植物からの試料抽出・精製のノウハウが蓄積してきているので、各プロセスの解析が加速されると期待している。エアロゾル試料についても、時期により大気プロセスが大きく異なることが予想されるので、定期的およびイベント時には集中観測を行うことで、解析が大いに進むと考えられる。また、本研究チーム内にとどまらず、世界的にも共同研究の申し出を多く受けていて、1,2年度内に、これらの申し出の中から適切な共同研究先を厳選して推進することで、予定以上の成果が見込まれる。
1: 当初の計画以上に進展している
Nature誌を含む38編の原著論文、学会発表78件、うち招待講演9件、国際会議発表40件を公表。計測法開発に関わる特許も1件取得。昨年度の紫綬褒章受章に続き、研究代表者はGSのパターソンメダルとGS/EAGの地球化学フェローを受賞。研究分担者の松木篤らは日本エアロゾル学会ベストポスター賞を受賞。放送大学特別講義「分子の履歴を読み解く~地球環境の指標・アイソトポマー~」が随時放映され、本研究内容の啓蒙が促進される。以下、特筆すべき進捗の例を示す。A)計測法開発および国際標準化A-1)PSIA:EMPAの研究協力者らと共同でN2OのPSIAとClumped計測法開発、国際標準試料の作成を行い、世界の機関との比較較正を主導。A-2)Clumped:フッ化法とHR-IRMSにより硫酸塩の34S-18O-Clumped計測法を確立し、分子温度により現在の海水硫酸のΔ34S18O値は初期地球の硫酸塩鉱物よりも高いことを発見。フッ化法でC2有機分子の13C-13C-Clumpedの高精度計測を可能とし、生物起源有機分子を見分ける強力な指標を獲得。A-3)MIF:SO分子および硫黄二量体の紫外線吸収スペクトルの理論的決定を実施し、32,33,34,36SO2の紫外線吸収スペクトルの不確定性要素の解除方法を開発。B)各プロセスへの応用B-1)地質プロセス:コスタリカにおける異なる温度・pHの温泉から生じるガス及び溶存炭素を分析し、マントルから供給されるCO2のうち9割は地殻に炭酸塩として固定され残りは生物に固定されることを発見。B-2)生物プロセス:北米とオーストラリアのガス田から産出されたプロパン-PSIA分析により、熱分解起源と生物分解起源を判別し、ブタン-PSIA分析から天然ガスの発生源有機物の分解進行度と生成温度情報を得た。B-3)人為プロセス:海洋酸性化を模擬した海水の現場培養実験、硝化細菌の純粋培養実験を行い、酸性化でN2O生成速度が増加することを発見。
本研究では、(A)同位体トレーサーの計測法開発および国際標準化を行い、(B)これをさまざまな環境試料に適用することで研究目的に述べた各プロセスを解明し、地質-生命-人為の相互作用を統一的に解析する診断法して提示する。次のように研究を実施する。A) 計測法開発と国際標準化PSIA、Clumped、MIFの新たな同位体分子計測法開発を継続して行う。N2Oについては全12種のうち10種の計測を可能としたので、これらについての国際標準化を進める。S-O-Clumped、C-C-Clumpedの国際標準試料の作成を行う。さらに新たな計測法の開発を進めるとともに、(B)で可能なものへの応用に進む。B)各プロセスへの応用B-1)地質プロセス:34S-18O Clumpedが持つ温度依存性・生物代謝依存性の解明を温度平衡実験・硫黄代謝菌の培養実験を通して行い、硫酸の起源(火山・大陸・大気・生物起源)の診断指標を確立する。B-2)生物プロセス:脂肪酸・有機酸・アミノ酸などより大きな代謝物の分子内同位体比数値計算モデルへ拡張することも進めており、ClumpedとPSIAを融合させた岩石圏から大気海洋系への供給過程診断・環境変化に伴う代謝変化の診断を行う。B-3)人為プロセス:昨年度までにイオン誘発核生成の関与が示唆されたことから、大気イオンの増加要因になりうる周辺環境パラメータを収集、解析する。エアロゾルの個数粒径分布の解析期間を増やし、新粒子生成イベントなどでの集中観測を行う。研究代表者が主宰者として提案し、2001年より日欧米で隔年開催している国際アイソトポマー会議の第10回を本年10月に東京で開催する予定であったが、延期した。来年2021年に真に20周年大会として開催して、より高い到達度となることが期待される本研究計画に関連する最先端の研究成果について討論を行うこととした。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (36件) (うち国際共著 27件、 査読あり 36件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (78件) (うち国際学会 40件、 招待講演 9件) 図書 (2件) 備考 (5件) 産業財産権 (1件)
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