研究課題/領域番号 |
17H06107
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研究機関 | 国立教育政策研究所 |
研究代表者 |
白水 始 国立教育政策研究所, 初等中等教育研究部, 総括研究官 (60333168)
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研究分担者 |
益川 弘如 聖心女子大学, 現代教養学部, 教授 (50367661)
齊藤 萌木 東京大学, 高大接続研究開発センター, 特任助教 (60584323)
飯窪 真也 東京大学, 高大接続研究開発センター, 特任助教 (40609971)
市川 治 滋賀大学, データサイエンス学部, 教授 (00821612)
北澤 武 東京学芸大学, 教育学研究科, 准教授 (80453033)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | 学習評価 / 学習科学 / 協調学習 / 授業研究 / 知識構成型ジグソー法 |
研究実績の概要 |
本研究はテストを起点とする「後ろ向きな学習サイクル(得点が学力を表すと信じられ,点数向上という目標を「一人で達成できる児童生徒」育成のために指導や支援システムが位置づけられる)」を「前向きなサイクル(前向きな学びのビジョンと理論を基に,それが授業で実現できることを示し,その実現度合いと各児童生徒の学びの見とりとして評価を位置づける)」へと刷新することを目指している。そのために実践班・システム開発班,テスト検証班・小中高大連携班,及び総括班の体制で研究を進める。 実践班・システム開発班では,コロナ禍に応じて,年度当初は児童生徒もテレビ会議システムのグルーピング機能を多用する形で「知識構成型ジグソー法」授業を行い,教員・研究者がシステムを介して授業研究に活用するフローを確立した。学瞰システムでテレビ会議システムの音声ファイルも認識可能にした。年度途中から児童生徒は対面でグループ活動を行い,その中央に置いた「学瞰レコーダー」から動画を遠隔配信する形で授業研究を行った。両者とも児童生徒の呟きや表情を格段に見とり易くすることで,仮説検証型授業研究の定着と相まって教員集団の評価力向上に貢献した。さらに学譜システムに「単元マップ」を追加し,一授業を超えた児童生徒の変容を捉える基盤を整備した。 テスト検証班では,東京大学入試国語問題を題材として積極的な読みを引き出すCBTを開発し従来版と比較する実験を行った。その結果,従来の出題・採点方法では見難かった受検者の解体・再構成による読解活動を把握することに成功した。小中高大連携班では,小中高生が大学知に触れるワークショップを2回行うと共に,各自治体で「知識構成型ジグソー法」授業から4~10年後にその内容や学び方を想起できるかの追跡調査を行い,主体的・対話的で深い学びの機会を小中高大となるべく豊富に質高く提供することが評価の刷新に有用との知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学習評価の問題は,入学試験も含めて社会的関心が高く,関係者の評価・学習観が関わる根深い問題である。表面的な評価手法の刷新を行ったところで,従来の「観」で手法が解釈されて使われ,サイクルの刷新には繋がらない。そこで本研究では授業という一単位から,一人ひとりの多様な学びの道筋を予測しデザインし見とるプロセスとして学習評価を位置づけることに重点を置いた。実践班による仮説検証型授業研究,システム開発班による授業前中後の議論と教材のデータベース学譜(学びの譜面)システム,授業中の発話を自動認識し直後の協議に使えるようにする学瞰(学びの俯瞰)システムはこれによく貢献した。学瞰システムは対面での協調活動を想定したものだったが,コロナ禍に応じて機能追加を行ったことで,「遠隔授業研究システム」とも呼べるシステム一式が出来上がったことは大きな成果であった。それを基にシステムの活用研究として連携自治体の安芸太田町が文部科学省「先端技術の効果的な活用に関する実証事業」を受託した。こうしたコロナ禍に機敏な対応ができたのは,授業研究コミュニティが育っていたことも大きかった。その成果を基に国立情報学研究所のサイバーシンポジウムでも初等中等教育分野におけるICT活用例として計3回の講演を行った。 こうした授業の積み重ねでいかなる学力が身についているかについて,テストの可能性を検討するテスト検証班は,CBTも活用して受検者のより積極的な認知活動を引き出し,プロセスを評価する研究を進め,大学入試センターのCBT活用部会報告に取り上げられるなど注目を集めた。小中高大連携班は,コロナ禍で対面活動を行い辛くなった代わりに各自治体で超長期間を置いた回顧型インタビューを行い,協調学習の学びがその内容と共に想起されること,その意味で学習者の学ぶ力を信じた実践の重要性を明らかにした。 以上の成果を学会発表5件,雑誌論文7件に纏めた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は5月末に最終年度シンポジウムを行って,成果と課題を把握し,得られた指針に従って5年間の成果を取りまとめ,書籍として刊行する。本研究では学瞰システムと学譜システムが,実践班により開発された授業研究手法に埋め込まれる形で実用され,テスト検証班により既存のテストが引き出す児童生徒の認知過程が解明される成果を挙げてきた。令和2年度にはコロナ禍で対面活動を全てオンラインでも行えるようにリデザインする必要が生じた一方で,「知識構成型ジグソー法」を用いた授業実践は過去3年間に比して54%減に留まる実践がなされた。特に小中学校では16%減に留まり,危機に対処できる教員コミュニティの成長が確かめられた。本年度は実践から集められた児童生徒の学習データを繋いで多面的に分析し,次の学びへの準備の連鎖として学習プロセスをモデル化し,評価を位置づける。 実践班は,システム開発班の単元マップも用いて,中長期スパンでの児童生徒の学習とその評価のための教員支援方略を開発・実証する。協力者の自治体下の小中高等学校において,一授業単位の評価実践を継続的に実施すると共に,複数学期・学年にまたがる学びを教科・教材の狙いと比較検証するなどのワークショップ型評価会を実施する。社会実装をより強化し,違った角度からの吟味を加えるため,研究分担者に勝野正章を加える。システム開発班は,対話など学習プロセスの可視化機能の改善を加えつつ,現場の自走を助けるためのシステムの簡素化を図る。 テスト検証班は児童生徒のより積極的な認知活動を引き出すCBT開発を続け,対面のパフォーマンス課題も含めて小中高生の良質かつ多様な思考過程の発揮・評価を狙う。そのデータも含めて対象児童生徒の中長期にわたる学習過程を明らかにして,内容理解と認知スキルの両面から,次の学びへの準備として学習過程をモデル化する。成果は国際誌・国内外学会で報告する。
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備考 |
CoREF(2021)「協調が生む学びの多様性第11集」/ 国立教育政策研究所(編)(2020)「学習評価」の充実による教育システムの再構築(フェイズ2中間シンポジウム報告書)/ 同(編)(2020)高度情報技術を活用した全ての子供の学びの質の向上に向けて (フェイズ1シンポジウム報告書)/ 同(編)(2020)高度情報技術を活用した教育革新の展望と検討課題 (キックオフシンポジウム報告書)
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