研究課題/領域番号 |
17H06110
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 将行 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (70322998)
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研究分担者 |
櫻井 香里 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50447512)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | 合成化学 / 全合成 / 天然物 / 生物活性分子の設計 / 生理活性 |
研究実績の概要 |
本研究は、強力な生物活性を有する巨大複雑天然物の構造と機能をモチーフとした、全合成から人工分子創製・活性評価・応用までを研究課題としている。実現すべき項目としては、①テルペン系・核酸系巨大複雑天然物の全合成、②ペプチド系巨大複雑天然物の固相全合成、③テルペン系天然物の類縁体網羅的創出、④ペプチド系天然物の類縁体網羅的創出および⑤合成分子群の構造・機能解析と活性発現要件の解明・応用があげられる。平成30年度は、これら項目を同時並行して遂行し、特に、項目①・②・③・⑤において、以下の成果を得た。 ①これまでに開発したラジカル二成分連結反応および三成分連結反応をそれぞれ適用し、テルペン系天然物であるタキソールおよびクラジエリンの効率的な骨格構築法の開発に成功した。また、ラジカル二量化反応を応用し、強力な抗がん活性を有するアシミシンの効率的全合成を達成した。 ②ペプチド系天然物ポリセオナミドBは、固相・液相合成を組み合わせて合成してきた。今回我々は、効率的な固相全合成法を初めて確立した。本法により、⑤に示したポリセオナミドBの機能評価が可能となった。 ③統一的な合成戦略に基づき、4個のテルペン系天然物カルデノリドの網羅的全合成を達成した。さらに、その活性評価の結果、縮環部位の立体化学・酸素官能基の数の重要性を明らかにした。 ⑤ポリセオナミドBは、細胞膜でのイオンチャネル形成によりイオン濃度の勾配を乱すだけでなく、リソソーム-細胞質間のpH勾配を消失させる効果を示し、これらの複合的な効果により細胞死を誘導することを初めて解明した。さらに、全合成されたペプチド系天然物ヤクアミドBを利用し、その標的タンパク質の同定を行った。その結果、ヤクアミドBは細胞内でミトコンドリアに集積し、FoF1-ATP合成酵素に対して結合することを初めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、当研究課題を大きく展開させ、9報の学術論文を出版することができた。また、これらの研究成果は国内外から高い注目と評価を得ており、数多くの招待講演を行うに至った。さらに、論文発表した成果以外にも、総合的に準備を終わらせている。以下のように、項目①~⑤のすべてにおいて、申請書記載の課題を順調に進展させており、平成31年度以降の展開に向けて基盤を形成した。 ①タキソールおよびクラジエリンの骨格構築法の開発およびアシミシンの全合成の完成により、ラジカル反応を基盤とする収束的な天然物合成の多様な方法論を提供した。いままでに開発した多数の合成戦略は、極めて独創性が高く、先進性に富み、世界的に高く評価されている。 ②48残基のアミノ酸からなるポリセオナミドBの固相全合成では、固相担体・保護基・縮合条件のすべてを最適化し、高い総収率(4.5%)を実現した。本合成法は、我々が研究基盤としているペプチド系天然物だけでなく、複雑な構造を有するペプチドの全合成法に大きな影響を与える。 ③テルペン系天然物カルデノリドの網羅的全合成では、我々の開発した全合成法の高い適用性を立証した。さらに、類縁体の網羅的創出が、活性発現要件の解明に重要であることを示した。 ④ペプチド系天然物であるグラミシジンAおよびライソシンEの固相合成法はすでに開発した。さらに、迅速な類縁体創出を実現している。 ⑤金ナノ粒子基盤の特性を利用する新たな標的タンパク質探索法を開発した。本方法は、合成分子に対する結合タンパク質のラベル化反応と濃縮精製を簡便化できる基盤技術である。ポリセオナミドBおよびヤクアミドBの機能解析は、それらの入手性の乏しさから不可能であった。今回の機能解明は、これら天然物の特異な機能を利用した新たな抗がん薬シーズ開発の可能性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
我々は、巨大複雑天然物の全合成からはじまる新たな創薬ケミカルスペースの開拓を目的としている。まず、革新的な合成戦略により、複雑天然物およびその類縁体の網羅的全合成を達成する。合成調達したそれぞれ10~10,000個の類縁体群の活性評価により、生物活性を制御する構造要件を原子レベルで決定し、天然物に内在する機能を明らかする。さらに、天然物を凌駕する高活性・高選択性を有する人工類縁体を開発する。具体的には、以下の項目を中心的に推進する。 ①現在までに開発した様々な合成戦略を応用し、タキソール、プロストラチン、オイオニミノール、タラチサミンおよびブフォトキシンなどの多様な生物活性を有するテルペン系天然物群の全合成ルートの確立を目指す。さらに、核酸系巨大複雑天然物としてヒキジマイシン(抗生物質)の全合成などを目標とする。 ②ポリセオナミドB、グラミシジンAおよびライソシンEの効率的な固相全合成はすでに確立した。そこで、構造中に多数のα,β-不飽和アミノ酸を有し、最も困難が予想されるヤクアミドB (抗がん活性)の固相全合成を実現する。 ③項目①で可能とする全合成法を応用し、これら類縁体の統一的・網羅的全合成を可能とする。 ④グラミシジンA、ライソシンEおよびヤクアミドBの固相全合成法を基盤として、1000種類以上の類縁体を網羅的に創出できる方法論を確立する。 ⑤全合成された天然物群の未知の機能を解明し、創薬応用への新たな展開を目指す。項目③において調達する類縁体群の構造・機能解析を行い、活性発現に必要な構造要件の解明につなげる。また、項目④で創出する類縁体群の生物活性を総合的に評価できる方法論を確立する。これにより、特定の活性に必要な特定の構造部位を解明し、特定の活性のみを有する強力な高機能分子を創製する。
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