研究課題
線虫C.エレガンスは環境中の塩の濃度と餌の有無を連合して学習し、経験した塩濃度に向かう、あるいは避ける行動を示す。本研究はこの際の行動反転の分子・神経機構を明らかにすることを目的としている。この行動制御に重要であると以前の研究より分かっていたのがDAGシグナル伝達経路である。神経細胞内で、酵素ホスホリパーゼC(PLC)によりジアシルグリセロール(DAG)が生成される。生成されたDAGはプロテインキナーゼC(PKC)などの酵素を活性化する。このシグナル伝達経路が塩を感じる感覚神経(ASER神経)内で活性化されると線虫は高塩濃度方向に進み、不活性化されると低塩濃度方向に進むことが分かっていた。そこで、実際にDAGの量がどのように変化するかを調べた。このためにDownward DAG2とよばれる蛍光プローブをASER神経に発現させ、蛍光の変化を顕微鏡で観測することによりシナプス部位のDAG量を測定した。この結果、感覚入力としての塩濃度の変化に応答してDAG量が変化することが観察された。塩濃度が上昇するとDAGは低下、塩濃度下降時にはDAGは増加した。DAGの増減はASER神経の感覚受容に依存し、カルシウム、PLCに依存することもわかった。さらに、飢餓を経験した線虫ではDAG量の変化が小さかった。この単純な機構により、DAGは過去に経験した塩濃度と現在の塩濃度の差をコードできることがわかり、塩走性の反転機構の一部が説明できた。また、飢餓による行動変化におけるfoxo型転写因子の役割と働きかたについての研究を進めるとともに、ASER神経から下流の介在神経への情報伝達をカルシウムイメージングで解析した。さらに、全神経の活動の同時観察のための4Dイメージングシステムの導入を進めた。
2: おおむね順調に進展している
研究分担者の研究室での4Dイメージングはデータ取得とデータ解析が進んでいる。研究代表者の研究室における4Dイメージングシステムの導入には少し時間を要したが、その後順調に稼動し始めている。DAG、foxoなどの分子の機能と動態の解析も順調、個別の神経の活動の測定も進んでいる。
foxoとCLCチャネルの機能解析を進めるとともに、学習記憶に関わる他の分子の遺伝学的な同定を行う。感覚神経から介在神経への活動の伝播の機構について詳細に調べる。さらに、4Dイメージングシステムにより全神経の情報の流れを解析する。また、高速トラッキング4Dイメージングシステムの開発を進め、行動中の線虫の4Dイメージングを目指す。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (50件) (うち国際学会 22件、 招待講演 4件) 備考 (2件)
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