研究課題
線虫C.エレガンスは環境中の塩の濃度と餌の有無を連合して学習し、経験した塩濃度に向かう、あるいは避ける行動を示す。本研究はこの際の行動反転の分子・神経機構を明らかにすることを目的としている。飢餓による行動が変化する機構として、これまでインスリン受容体DAF-2のアイソフォームの一つであるDAF-2cが重要であることが分かっていた。重要な点として、DAF-2cは軸索に局在し、軸索で機能する。一方、通常インスリン受容体で負に制御されるFOXO型転写因子であるDAF-16も同じ学習に必要であることが分かっていた。DAF-2cとDAF-16の双方を同時に欠損させると飢餓学習が全く起こらないという非常に強い異常を示した。つまり、両者は並行して働く。この点はFOXOがインスリン受容体により負に制御されるという一般的機構と大きく異なっている。FOXOは飢餓に応じて細胞体の核に移行して働くこと、もう一つのインスリン受容体アイソフォームによりこれが負に制御されることもわかった。DAF-16の制御の下流では神経ペプチドが働くらしいことも明らかとなった。以上により、軸索と核との両者で異なるインスリン経路が働き、これら双方が飢餓による行動反転に寄与しているという新規知見が得られ、論文発表した。一方、全神経の活動の同時観察のための4Dイメージングシステムの導入を進めた。データは得られるようになったが、個体ごとに神経細胞の配置が異なるため、神経細胞の名前付け(アノテーション)の作業が難しい。これは以前より分かっており、多数の線虫個体の神経サブセットをラベルして共焦点画像を得る作業を地道に行ってきた。そのデータをもとに、名前付けに最適なラベル株を作製するとともに、自動アノテーションのアルゴリズムを構築し、マニュアル、自動の共同作業のためのソフトウェアを構築し、論文発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
インスリン経路のパラレル機構について明らかになり、論文発表をできた。4Dイメージングについても細胞のアノテーションのための神経細胞の位置関係アトラスデータの論文も出すことができた。加えて、今年度に入って飢餓学習についての論文をすでに発表している。今後さらに4Dイメージング、介在神経の活動、など論文を準備中であり近く発表できる見込みである。
飢餓により行動が変化するしくみについては、感覚神経が複数必要であることが分かっていたが、同定されていなかった。これについて、重要である神経を特定するとともに、その活動パターンや活性化したときの効果を調べ、機能を解明している。飢餓後の介在神経の活動を測定するとともに、関わる新たな分子の解析も進めている。全脳イメージングもデータが蓄積してきているので情報の流れを明らかにし、論文発表を進める。
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