研究課題
微小なモデル生物である線虫C. elegans では全神経回路の構造が既知であり、実際の生物における神経系の情報処理機構を明らかにできる可能性を秘めている。本研究では線虫を用い、神経回路が感覚入力を処理して行動を引き起こすまでの全神経回路を解明し、学習によりその行動が変化する分子・神経機構を明らかにすることを目的としている。このために以下を進めた。1)飢餓により経験した塩濃度を避けるようになる学習の分子メカニズムとして、インスリン受容体Daf-2cの下流で二つのフォスフォリパーゼが働くことを見つけ、それぞれが高塩への移動、低塩への移動を制御することが示唆された。2)CLCタイプの塩化物イオンチャネルCLH-1に特定の変異が入ると線虫の低塩濃度への走性が大きく減弱することを見出し、このチャネルの働きを機能解析した。この変異はセミドミナントであること、この変異が感覚神経で働くことにより感覚神経の塩化物イオンの動態が異常となり、同じ神経のカルシウム応答が鈍くなることを明らかにし発表した。3)経験した塩の濃度に向かうようになる行動可塑性の機構を調べ、感覚神経ASERから介在神経AIBへのシナプス伝達が反転することを見出し、これに伝達物質グルタミン酸と興奮性抑制性双方の受容体が関与することを明らかにし発表した。4)全脳の神経活動を同時に測定する全脳イメージングの系において、神経の名前づけを行うため、各神経の位置を系統的に共焦点顕微鏡で測定した「Neuron IDデータセット」を作成し発表した。
2: おおむね順調に進展している
予定した研究項目のうち、1)細胞内シグナル伝達によるシナプス制御、2)シナプス反転の機構 の両者について進展があった。3)運動回路の同定、4)感覚運動相互作用もAIB-AVAを中心に知見が得られ論文発表を行った。
シナプス反転により行動反転が起こることまではわかったので、反転に関わる分子の特定と性状解析に全力を上げる。
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