研究課題/領域番号 |
17H06118
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中塚 武 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (60242880)
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研究分担者 |
藤尾 慎一郎 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (30190010)
木村 勝彦 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (70292448)
小林 謙一 中央大学, 文学部, 教授 (80303296)
佐野 雅規 早稲田大学, 人間科学学術院, 講師(任期付) (60584901)
若林 邦彦 同志社大学, 歴史資料館, 教授 (10411076)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | 年輪年代法 / 酸素同位体比 / 日本列島 / 先史時代 / セルロース / 水素同位体比 / 土器編年 / 気候変動 |
研究実績の概要 |
年輪年代法は、考古学における最も精度の高い年代決定法である。本研究は、従来の年代決定の指標である「年輪幅」を「年輪セルロースの酸素同位体比」におきかえることで樹種の違いを越えた普遍的な年代決定を可能にした「酸素同位体比年輪年代法」を、日本列島の先史時代史の解明に全面的に活用していくために立ち上げられたものである。その中では、全国各地の埋蔵文化財調査機関の協力の下で、年輪年代決定の物差しと気候変動の復元を念頭に置いた「クロノロジー構築班」、遺跡出土材の年輪年代決定と官民への技術移転を進める「年輪年代測定班」、酸素同位体比年輪年代を用いた土器編年の暦年代化を進める「土器編年対応班」及び、全体の成果をとりまとめて先史時代における気候変動の社会影響評価を行う「総括班」の4つの班が相互に連携して研究を進めてきた。今年度は研究代表者の所属機関の異動に伴い大型分析装置の移動を行ったが、それに加えて以下のような特筆すべき研究成果があった。「クロノロジー構築班」では、紀元前3000年前の縄文時代中期まで年単位で遡れる酸素同位体比のクロノロジーを世界で初めて構築することに成功した。また中部日本では酸素と水素の同位体比を組み合わせることで、過去2500年間の気候変動の年~千年のあらゆる周期での復元に成功し、そのデータを公開した。「年輪年代測定班」では、全国各地の弥生時代から近世までの様々な時代の遺跡・文化財の年代決定に成功するとともに、自治体の発掘調査員を主な対象とした酸素同位体比年輪年代法の講習会を2回に亘って開催した。「土器編年対応班」では、弥生・古墳時代の遷移期の重要土器との一括性が明確な遺跡出土材の年代決定を進め、遺跡の層位学的状況に照らして年単位での年代の検討を進めた。「総括班」では、先史時代の日本列島の人々の気候応答に関する論考を取りまとめた、編著・単著の出版の準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
3つの班と1つの総括班の取り組みは、当初の計画以上に進展している。「クロノロジー構築班」では、5000年前まで遡れる年輪セルロース酸素同位体比のクロノロジーの構築に世界で初めて成功したが、これは日本の先史時代のみならず、朝鮮半島や中国東部の古代文明の成立の解明にも利用できる国際的な成果であり、既に新羅の王朝の遺跡の年代決定などに成功裡に利用され始めている。また、酸素と水素を組み合わせて樹齢効果を取り除き、あらゆる周期での正確な気候変動の復元に成功した中部日本のデータからは、先史時代から近世に至る日本史の全体に気候変動が大きく影響してきた可能性が、考古学・文献史学の両面から詳細に明らかになってきており、今後の歴史研究への全面的な応用の発展が期待できる。「年輪年代決定班」では、日本列島の内外での各地域・各時代の遺跡の年代決定が順調に進むと共に、酸素同位体比年輪年代法の官民への技術移転を目的とした技術講習会も複数回に亘って開催してきた。講習会は受講者から概ね好評を得ると共に、今後の技術移転に向けた具体的な課題も明らかになり、次の講習会の内容の検討が進められている。また、小径木の年代決定を念頭に置いたセルロース同位体比の季節変動の分析が進められ、酸素同位体比年輪年代法の今後の飛躍的な発展と精緻化につながる、さまざまな新しい樹木生理学的な発見があった。「土器編年対応班」では、弥生/古墳時代の年代観を明らかにする上で重要な庄内式、布留式、初期須恵器などの土器型式の暦年代化につながる年輪年代データが次々と得られ、詳細な考古学的・層位学的な検討が進められている。こうした成果を社会に広く発信していくために、「酸素同位体比年代法」(単著)、「気候変動から読みなおす日本史」(編著)の出版の準備も進められ、研究成果を普及していく体制も整ってきている。
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今後の研究の推進方策 |
3つの研究班(①クロノロジー構築班、②年輪年代測定班、③土器編年対応班)と1つの総括班が互いに連携しながら、以下のように、各々の目標に向かって研究を進める。 ①クロノロジー構築班 酸素同位体比クロノロジーの拡充と精度の向上に努め、年代決定の成功率を上げ、正確な気候復元を行う。放射性炭素の2400年問題(BC800-BC400年の資料の14C年代が区別できない問題)に対応して、縄文晩期~弥生前期のデータベースを拡充し、「資料取得済だが分析個数が少ない時代・地域」の測定個数を増やす。データは、気候復元と合わせて国際誌で出版するとともに、公的データベースに登録して公開する。 ②年輪年代測定班 幅広く国内外の遺跡出土材の年輪年代決定を進めるとともに、酸素・水素同位体比の年層内変動の検討を進め、小径木の年代決定技術を発展させる。同時に官民への技術移転のための講習会を拡大して実施する。講習会を受講した発掘調査員ら自らが、他機関の支援を受けながら、酸素同位体比年輪年代法の作業を進められる体制を構築していく。 ③土器編年対応班 重要な型式の土器と木材が一括性の高い状態で出土している、弥生後期~古墳中期の遺跡について、これまでの研究成果を慎重に検討するとともに、年輪年代測定班と協力して更なる出土材の収集と分析に取り組み、土器型式の暦年代の検討結果を公表していく。 ④総括班 気候復元及び年代決定の成果を国内外の関係者に広く発信して活用を促進するために、論文や著書の出版、データベースの公開に加えて、全体を総合する編著本(「気候変動から読みなおす日本史」や単著本「酸素同位体比年輪年代法-最新技術で先史・古代を探る」の出版を行う。さらに「気候‐生産-備蓄-人口」に関するモデリングや、出土木器数の年別ヒストグラム等の社会定量指標の開発など、先史時代の社会像を高精度化するための最先端の研究にも取り組む。
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