研究課題/領域番号 |
17H06120
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大岩 顕 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (10321902)
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研究分担者 |
藤田 高史 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (00809642)
木山 治樹 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (80749515)
浜屋 宏平 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (90401281)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | 相互量子状態変換 / 量子ドット / スピン / 光子 / 面内pn接合 / スピンバルブ / 量子もつれ |
研究実績の概要 |
光子から電子スピンへの量子状態変換ともつれ相関変換では、昨年度、一方向の観測基底について部分的量子状態変換を報告した。今年度は、その基礎となる単一光生成電子スピン検出法と、単一光子から単一電子スピンへの角運動量変換の成果を発表した[Fujita et al., Nat. commun. 2019]。今後、量子状態変換やもつれ相関変換の実証では、変換された電子スピンに対して電子スピンコヒーレンス時間内に高速回転操作を行い、ブロッホ球上の複数のスピン状態を測定する必要がある。そこで多重量子ドットでのドット間トンネル移動を利用してスピン軌道相互作用を増大させ、電子スピン操作速度を200MHz台まで伸ばすことに成功した[論文準備中]。 電子スピン状態から光子への変換では、アンドープ量子井戸を使ってゲート電圧で平面pn接合を誘起し、量子ドットを含む平面LEDの実現を目指している。今年度、電界誘起n型領域に電子量子ドットを形成し、スピンの操作・初期化・検出に重要なスピン閉塞効果の観測に成功し、単一電子スピン源形成のための技術を確立した。このような、アンドープ基板中の量子ドットは、不純物のイオン化に由来する影響を抑制し、光照射に対して安定で、上記のもつれ相関変換など高度な測定に貢献することが期待される。 Geスピンバルブ素子の研究では、通信波長帯(~1.55μm)のLED光照射とスピン伝導信号の関係を検証した。キャリア(電子)濃度が~1017cm-3程度のGeチャネル層を有する横型スピンバルブ素子において、波長~1.55μmのLED光のON/OFF状態でスピン信号の変化 [スピン信号強度の差(~0.4μV)]を観測することに成功した。今後、円偏光照射(スピン注入)に対してスピン蓄積状態を反映したスピン信号の変化を観測し、間接遷移型半導体における光-スピン変換の影響を解明していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年、光子から電子スピンへの量子状態変換の部分的実証の成果を受け、光子対から電子スピン対へのもつれ相関変換へ進めている。その実証ではスピンの観測基底を変えてスピン状態トモグラフィー測定を行う計画であるが、電子スピンコヒーレンスが失われる前に転写された電子スピンに高速スピン操作を行うことができると、成功がより確かになる。そこで多重ドットのドット間遷移とスピン軌道相互作用を組み合わせた簡便で拡張性がある新しい手法を提案し、高速電子数ピン操作を実現したことは当初の予定になかった重要な進展である。また光子対から電子スピン対へのもつれ変換も、もつれ光子対源の構築など着実に進めている。逆過程の電子スピンから光子偏光へ変換する発光素子の研究では、ゲート制御量子ドットと平面pn接合を組み合わせた素子の開発を進めいている。今年度、アンドープ基板にゲート電界で電子を誘起し、さらに量子ドットを形成してスピン検出やスピンの初期化に必要なスピン閉塞効果の観測に成功したことは、大きな進展である。平面pn接合はまだ実現できていないが、これまで問題であったp型領域のオーミック電極の作製に目途が立ちつつあり、平面pn接合とLED動作の早期の実現が見込まれるので、大きな遅れはない。 Geスピンバルブ素子の研究では、通信波長帯の円偏光照射に対するGeスピン素子の応答を得るため、キャリア濃度および素子構造を検討することで、~1.55μm 波長のLED光照射とスピン伝導信号の関係を得ることに成功している。円偏光照射実験に着手するために、垂直磁化膜を用いた素子の開発にも既に着手し始めており、やはり大きな遅れはない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度開発した高速スピン操作を量子転写実証実験に導入し、まず転写された電子スピン状態に対するスピン操作を実現し、スピン状態トモグラフィーにより量子状態変換の完全な実証を目指す。並行してアンドープ量子ドットの光照射下での安定性と光子検出レートを評価し、光照射に対する安定性と有効性が確認されれば、本実験に導入し研究を加速させる。 来年度早々に、パラメトリック下方変換によるもつれ光子対発生源を完成させ、量子ドットへの照射実験を開始する。遠隔2量子ドットでの電子スピン相関の実証実験を目指して、代表者の研究室の2台の希釈冷凍機にそれぞれ量子ドットを配置して、電子スピン操作を組み合わせた2量子ドットでの2スピン同時測定の開発などの準備を行う。アンドープ量子ドットのもつれ変換実験への応用も検討する。 ゲート制御量子ドットと平面pn接合を組み合わせたエレクトロルミネッセンスの実現では、まず来年度中にp型オーミック電極の形成法を確立し、平面pn接合でのエレクトロルミネッセンスの観測を目指す。それらの実験のために、研究室既存の4He光学冷凍機を使い、室温あるいは低温磁場下でのエレクトロルミネッセンス測定系を構築する。量子状態変換のためには、電子スピンと再結合する正孔の状態も適切に設計し準備する必要がある。このために並行して(110)GaAs量子井戸基板を使った平面pn接合にも着手する。 2020年度中に垂直磁化膜を用いたGe中のスピン伝導(蓄積)が達成され、その素子を利用した円偏光スピン注入の検出実験を実施する。光学的スピン注入効果をスピン蓄積信号の増減により検出することが可能となり、Geスピンバルブ素子における円偏光光子からの電子スピンへの変換を検出する技術が確立し、Ge系における光子―電子スピン量子状態変換の知見を得ることができる見込みである。
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