研究課題
代表者は様々な技術開発を通して従来のAFMよりも千倍速い高速原子間力顕微鏡(高速AFM)を実現し、個々のタンパク質分子機械の機能動態をリアルタイム、高解像で直接観察することに世界で初めて成功した。これまでに着実に進められてきた高速AFMのバイオ応用研究は、高速AFMが他の手法では得られない発見を可能にするブレークスルー技術であることを実証してきた。その一方で、現在の最先端高速AFMでも観察できない系があることも明らかになってきた。具体的には、生きた真核細胞や細胞内小器官の膜にあるタンパク質の高解像観察ができない。その理由は、膜は非常に柔らかく、AFM探針との接触により大きく歪むためである。また、精製膜タンパク質系においても、膜表裏の間に生理的には存在するイオン環境を持たせることができず、生理的環境下での膜タンパク質を観察することができない。そこで、本プロジェクトで以下①②の技術を実現し、これら困難な観察が可能であることを実証する。①これまで進めてきた非接触イメージング可能な走査型イオン伝導顕微鏡(SICM)の高速化・低ノイズ化を更に進展させるとともに、カーボンナノチューブ(CNT)などを利用し解像度を向上させ、非侵襲、高解像、高速なSICMを実現する。②膜タンパク質を含む脂質平面膜の小さな面を宙に張り、膜表裏の間に生理的イオン環境を形成できるアッセイ系を開発する。本プロジェクト初年度にあたる2017年度では、上記研究実施に必要な環境を整えるとともに、「現在までの進捗状況」に記したとおり、①についてはCNT利用技術を開拓してCNTを流れるイオン流の計測に成功し、②については必要なアッセイ系の基礎となるタンパク質の二次元結晶作成に成功し、次年度以降の順調な進展に繋がる良好な成果を得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
SICMの解像度向上については、CNTの超音波による切断、短いCNTの可溶化、ガラスナノピペット先端の脂質二重層膜によるギガシール形成、その脂質二重層膜へのCNTの挿入、CNT内部を流れるイオン流の計測まで成功させた。CNTの膜への挿入は脂質の流動性などの性質、ガラスナノピペットの性質に依存することを見出した。また、脂質によっては、バイアス電圧100 mVで破壊されることもあることを確認した。光重合可能な脂質としてよく利用されるDiynePCの二重層膜にはCNTは挿入されなかった。そこで、複合脂質系に加え、他の脂質にも適用可能な脂質重合法も検討した。SICMの更なる高速化(高帯域化)には低ノイズ化が必須である。そこで、ガラスナノピペット外壁にアルミニウムの原子層を形成させ、低ノイズ化が期待される電気容量の低減化に成功した。Zピエゾ駆動に伴ってイオン電流に生ずるノイズの低減化についても、ピエゾ素子の静電遮蔽に加え、ノイズをキャンセルする信号を発生させるなどの工夫により、ノイズ低減化が進んだ。生理的イオン環境を付与可能な微小膜環境の作成法についても、大きな前進があった。ビオチン結合能を有するタマビジンの二次元結晶をマイカ表面に直接形成させる条件検討を行った。その結果、タマビジンの二次元結晶がきれいに形成された。更には、種々の溶液を試したところ、二次元結晶に空隙結果を一度に多く生成させることにも成功した。この二次元結晶上にビオチン脂質を含む脂質平面膜を張ることにより空隙欠陥の上に宙に張られた膜が形成された。この微小な膜領域は非常に硬く、AFM探針との接触で0.1 nm程度しか歪まないことを確認した。この宙に張られた膜に膜タンパク質を導入できれば、膜タンパク質の高解像高速AFM観察が実現されると期待される。
いくつかの技術的課題をクリアする必要はあると思うが、今のところ研究は順調に進展しており、少なくとも2018年度については当初の計画を変更する必要はほとんどないと考える。SICMの高解像化に向けたCNTプローブの作成は成功の見込みが高いと思われるため、高解像化に向けた第二の方策(ガラスナノピペットの先鋭化加工)にはしばらくは着手せずに、CNTプローブの作成に専念する。微小膜環境については、作成法がほぼ確立したと思われるため、精製膜タンパク質系のこのアッセイ系への組み込み試験を開始し、高速AFMによるイメージング実験を行う。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 3件、 査読あり 16件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 9件、 招待講演 10件) 備考 (4件)
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