研究実績の概要 |
提案者が独自に見出した「応力と歪に対する有機単結晶半導体の伝導度の巨大応答現象」をベースに、ホール効果などの精密な磁気輸送測定によって、ソフトなフォノンと強く結合した少数キャリアの特徴に起因するメカニズムの解明と結晶構造に相関した歪係数の特異な異方性の発見に成功した。また、歪効果を高感度検出するために、高キャリアドープによるノイズ低減の手法も確立し、遂に有機半導体で初となる金属絶縁体転移を実現するなど、数々の先駆的な研究成果をあげた。 有機単結晶薄膜のシート抵抗が10 K程度の低温まで単調に減少し続けるという金属状態特有の温度依存性は(S. Watanabe, J. Takeya, Nature Materials, 20, 1401 (2021))、有機半導体結晶の絶縁体―金属転移の研究は四半世紀に渡り進められてきたが、実験的に実証されていなかった。本系において1分子層厚みに電荷が閉じ込められた二次元ホールガスが形成されていることを明らかにした。二次元電子ガスおよび、二次元ホールガスは、精密に原子層を制御した無機材料の界面において実現されるのが一般的であるが、それに対して今回得られた有機二次元ホールガスは、自発的に集合体を形成する有機半導体の表面で簡易に実現することを実証し、歪みセンサの低ノイズ化だけでなく、有機半導体における電子相転移の基礎研究に加えて、高速電子デバイスや量子エレクトロニクスデバイスへの応用が加速する礎を築いた。 本研究において、10 cm2/Vsを超える、有機半導体では異例の高い移動度を得た研究実績に加え、やわらかい半導体という機械的な特徴を電気伝導特性と結びつけたフレキシブルメカノエレクトロニクスの研究分野を確立した。また、有機半導体単結晶を30 cm角サイズの大面積成膜することにも成功し、IoT社会に直結する産業応用面でも多大な意義があった。
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