研究課題/領域番号 |
17H06124
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 耕一郎 京都大学, 理学研究科, 教授 (90212034)
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研究分担者 |
柳 和宏 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (30415757)
片山 郁文 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (80432532)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | 高次高調波発生 / 極端非線形分光 / 単層薄膜 / 赤外分光 |
研究実績の概要 |
基盤Sで導入した2出力同期パラメトリック増幅器は4から10ミクロン波長域の中赤外パルス光を発生可能であると共に、パルスの包絡関数に対するキャリア位相(CEP)がロックされているという特徴をもつ。今年度は電場波形を正確に計測する手法を確立した。中赤外光の振動周期よりも短い近赤外パルス発生システムを構築し、GaSe結晶の電気光学効果を用いて中赤外光の電場波形の計測に成功した。 また、黒リンからの近赤外域から可視域にわたる高次高調波発生の結晶方位依存性を測定した。層状物質である黒リンは層数に依存したバンド構造や高い異方性をもつことから固体における高調波のメカニズムを調べる上で魅力的な系である。近赤外域では擬1次元系とみなせる角度依存性が得られたのに対し、可視域では入力偏光方向に強く依存した特異な偏光特性が現れることを明らかにした。さらに、10 nm程度の超薄膜を作製可能な金属相をもつNbSe2と1T-TaS2において高次高調波発生の実験を行った。その結果、7次までの低次の高調波とブロードな放射を観測した。簡単なモデルにより、金属にもともと存在するキャリアのバンド内電流が高調波に主要な寄与であり、散乱過程で生じたホットな電子系がブロードな放射をもたらしていると結論した。前年度見出した (6,5)SWCNT薄膜における高次高調波発生効率のキャリア注入依存性を説明するために、2バンドモデルを用いて、密度行列の時間発展を最も単純な形で計算した。その結果、3次の次数は非線形電流の寄与が支配的で、5次以上の次数は非線形分極の寄与が支配的であることが分かった。 金属構造体の利用の一環として、THz-STMを整備した。テラヘルツ光をSTMに照射しすると物質から発光が生じることを見出した。これは、テラヘルツ光の照射によって探針―試料間にトンネル電流が誘起され、プラズモン発光が生じていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画通りにサブサイクル分光に関わる計測装置の整備が終了している。また、黒燐において、特異な偏光依存を見出したことや、SWCNT薄膜における高次高調波発生のキャリア注入依存性を説明するシンプルな理論を構築できたことは、当初の計画より早く得られた成果である。また、走査型トンネル顕微鏡(STM)の針を金属ポイントコンタクトとして用いた新規な非線形発光現象をすでに見出しており、デバイス構造を用いたキャリア制御による高次高調波発生の制御の研究も大きく進展した。以上から、当初の計画より進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
高次高調波発生用の励起レーザーの長波長化を進める。赤外域は空気による吸収が存在するために、離散的にいくつかの波長を選んで励起を行い、波長依存性を明らかにする。現在、4.6 ミクロンに加えて、8ミクロンのMIR光源を用いた実験を開始している。これに、10ミクロンのMIRを用いた実験を追加し、物質のバンド構造や金属、絶縁体の差異などを明らかにする。また、基盤Sで導入したMIR光源が有するキャリア位相(CEP)がロックされているという特徴を生かして、中赤外光の振動周期内での高速応答(サブサイクル応答)の観測を開始する。これにより、高次高調波の放射タイミングやその時の電子状態が明らかになる。これにより、高次高調波発生メカニズムの解明を行う。 これまで、ナノ物質、特にカーボンナノチューブを用いて、電子構造と高次高調波発生の関係解明、および液体ゲートを用いてフェルミレベルの位置と高次高調波発生との関係解明を行なってきた。キャリア注入により増大する次数・減少する次数が明らかとなり、バンドギャップと次数のエネルギーの関係が重要であることが分かってきた。この次数制御を実験・理論の両面で正しく理解し、高次高調波発生の完全制御を実現することが次の課題となっている。そのために、液体ゲートから固体ゲートに変更してキャリア注入を実現することにより、高速スイッチングが可能な高次高調波発生制御を実現する。 THz-STMを用いた研究においては、ナノスケールの非線形応答を理解し、それを活用してサブミクロンスケールのデバイスを設計・実証することを目指す。原子層デバイスにおけるSTM発光の計測を行うと共に、空間分解の発光測定や発光のコヒーレント検出を行うことによって、ナノスケールの非線形光学応答に関する情報を引き出す実験を進める。
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