研究課題/領域番号 |
17H06125
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野田 進 京都大学, 工学研究科, 教授 (10208358)
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研究分担者 |
浅野 卓 京都大学, 工学研究科, 准教授 (30332729)
井上 卓也 京都大学, 工学研究科, 助教 (70793800)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | 熱輻射制御 / 近接場 / 熱光発電 / フォトニック結晶 |
研究実績の概要 |
本研究では、高温物体と受光素子を近接させた際に生じる近接場熱輻射に着目し、フォトニック結晶を活用することで所望の帯域のみで黒体輻射限界を超える熱輻射を引き出す技術を確立し、高出力・高効率な熱光発電への展開の基礎を築くことを目的とする。昨年度は、フォトニック結晶による近接場熱輻射制御の体系的理論構築を完了するとともに、薄膜Si熱輻射光源の作製プロセスの確立を行い、ピエゾステージを用いてInGaAs太陽電池との近接実験を行った結果、光源を加熱した状態で両者の距離を300nm程度まで近接させることに成功した。 今年度は、加熱した光源と受光素子をさらに至近距離(100~200 nm)まで近接させる技術を確立することを目指し、当初の研究計画を1年前倒しして、熱輻射光源・太陽電池一体型近接場デバイスの開発に取り組んだ。具体的には、薄膜Si熱輻射光源とInGaAs太陽電池を予め微小空隙を残して貼り合わせるプロセスを確立し、光源を1000 K以上に加熱した状態で、光源と太陽電池間の平均近接距離140 nmを達成することに成功した。続いて、平均近接距離が異なる2つのデバイスを作製し、等しい温度(1040 K)で電流電圧特性を測定した結果、近接距離を1160 nmから140 nmまで近づけることで、太陽電池の短絡電流が10倍以上に増強されることを実証した。さらに、高効率な近接場熱光発電を実現する準備として、遠方場における熱光発電実験についても別途検討を行った結果、投入加熱パワーから電力への変換効率11.2%(我々の知る限り世界最高値)を得ることに成功した。加えて、当初計画にない新たな展開として、不要輻射を回収するための反射鏡を導入した、「リサイクル式近接場熱光発電システム」を提案し、理想太陽電池を用いた場合の変換効率が40%を超えるような高効率熱光発電の実現可能性を数値計算により明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、フォトニック結晶による近接場熱輻射の自在な制御の実現を目指しており、(I)体系的理論構築、(II)光源・受光素子対の近接場結合法の確立、(III)近接場熱輻射制御の実証および熱光発電への展開、の3研究項目を設定している。昨年度までに(I)を既に完了しており、今年度は(II)および(III)の前倒しでの検討を行った。 (II)に関しては、昨年度よりもさらに至近距離(100~200 nm)まで光源と受光素子を近接させる技術を確立することを目指し、熱輻射光源・太陽電池一体型近接場デバイスの開発に取り組んだ。その結果、光源を1000 K以上に加熱した状態で、光源と太陽電池間の平均近接距離140 nmを達成し、当初計画より1年前倒しで、(II) の計画を完了した。 (III)に関しては、(II)で作製したデバイスを用いて近接場熱輻射伝達実験を行った結果、太陽電池の短絡電流が10倍以上に増強されることを実証し、当初計画よりも1年以上前倒しで、近赤外域における定量的な近接場熱輻射伝達の世界初の実証に成功した[Nano Lett., vol.19, pp.3948 (2019)]。さらに、高効率な近接場熱光発電システムを実現する準備段階として、遠方場における熱光発電実験についても別途検討を行った結果、投入加熱パワーから電力への変換効率11.2%(我々の知る限り世界最高値)を得ることに成功した[ACS Photonics, Vol.7, pp.80 (2020)]。本成果は、幸いにもNature Photonics 2020年2月号の News & Views にも取り上げられた。さらに、当初計画にはない新たな展開として、近接場熱光発電システムへの反射鏡導入効果の検討をも行い、高効率熱光発電の実現可能性を見出すに至った。 以上により、本研究課題は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、現在までに、研究が当初予定以上に進行しており、当初計画の (I)(II)については目標を達成し((II)は前倒しで完了)、(III)についても、近赤外域の近接場熱輻射伝達による10倍以上の光電流の増強の実証に、当初計画よりも一年以上前倒しで成功した。さらに、当初計画になかった新たな展開として、近接場熱光発電システムに、不要な熱輻射を光源側に戻すための反射鏡を導入した「リサイクル式近接場熱光発電システム」の提案を行い、反射鏡を導入した場合は、理想太陽電池を用いた際の発電効率40%以上の実現も視野に入り、かつ光源厚さを増加させるほど、不要輻射の回収率が向上して、発電効率が単調に増加するという重要な知見を得ることにも成功した。 そこで来年度の検討では、当初計画(III) 「近接場熱輻射制御の実証および熱光発電への展開」に関するさらなる実験的検討を進めるとともに、新たな研究項目として、「反射鏡を導入したリサイクル式近接場熱光発電システムの実証」に向けたシステム設計および実験系の構築を行う。前者に関しては、高温加熱時の光源平坦性がさらに向上すると期待される、より厚膜のSi熱輻射光源を利用して、一体型デバイスの作製を行い、光源の1200 K以上の高温動作を達成することで、太陽電池の光電流密度をさらに数倍~1桁以上増大することを目指す。後者に関しては、Si熱輻射光源を加熱するための光を透過しつつ、光源から生じた長波長熱輻射を反射可能な、具体的な金属反射鏡構造の設計および作製を行うとともに、一体型近接場熱光発電デバイスの上下に反射鏡を配置した状態で、光源加熱および電流電圧特性評価が出来るように、これまでに構築した実験系の改良を行う。
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