研究課題
オンチップ型超広帯域超伝導分光器という新しいコンセプトの、天体信号の検出による初実証に、世界に先駆け成功し、その成果を出版することができた。これはDESHIMA技術試験モデルをサブミリ波望遠鏡ASTEに搭載して銀河を含む天体信号の検出に成功したものである。また、観測手法・データ較正法の確立についても、望遠鏡の仰角を変えて検出器出力の反応を調べるskydip測定のデータ解析が進み、その結果を査読論文として出版することができた。これらの成功を踏まえ、220GHzから440GHzという当初案を超えた完全1オクターブの分光を実現するDESHIMA 2.0の設計・開発が大きく進んだ。さらに、LMT望遠鏡に搭載する多画素化したDESHIMAのための大型真空・冷却システムと、大規模読み出し回路システムの開発・導入を進めた。広帯域レンズ・アンテナ結合の研究が進み、高い拡張性と将来性を有する優れた設計解を見出すに至ったことも大きな成果である。アルマ等での観測により、ハッブル宇宙望遠鏡等を使った静止系紫外線の銀河探査では見逃されていた、形成途上にある大質量銀河が、赤方偏移3~6の時代に(現在の理論予測を超え)大量に存在することを見出した。またそうしたダストに隠された銀河やブラックホールの成長を支える巨大なガス流を発見するなど、重要な科学成果が得られている。加えて、アルマの大型プログラム ALMA lensing cluster survey (ALCS;PI河野)の、合計96時間にも及ぶ全観測が完了した。ここで得られる大規模データを活用することで、[CII]光度関数の、特に低光度側への制限を得ることができると期待される。
2: おおむね順調に進展している
チップ上に集積した超伝導分光器という新しい概念を世界に先駆け実証し、天体観測を行ってみせた実績と経験を踏まえ、当初案(観測周波数範囲210GHz-360GHz)を超えて、完全1オクターブという超広帯域分光を実際に実現する仕様(観測周波数範囲220GHz-440GHz)のDESHIMA2.0の開発を進めており、2020年度後半にはASTE望遠鏡へ搭載して、本格的な科学観測を進める準備がほぼ整いつつある。また、多画素化したDESHIMAのための大型真空・冷却システムの導入、そして8,000素子を超える超伝導素子の読み出しを可能とする大規模読み出し回路システムの開発・導入も完了した。それらを組み合わせて使用したDESHIMAチップの実験室評価にも既に成功している。一方で、LMT望遠鏡現地での治安問題や、DESHIMAの多画素化を実現するための研究開発において時間を要し、結果として、当初予定よりはLMT望遠鏡への搭載準備は遅れている。ただ、当初の目標より拡張性の高い設計解に到達できたという予定以上の進展もあること、またASTE望遠鏡に(これも当初目標を超える)完全1オクターブのDESHIMA2.0を搭載して、数ヶ月規模という大規模な科学観測を実施する目処がASTE望遠鏡側との調整も含めてついていることを考慮すると、本計画で目標に掲げていた[CII]輝線光度関数の測定は、特に光度が大きい側(bright end側)で十分に可能である。こうしたことから、本課題は着実に進展していると判断している。
観測周波数帯域220GHz-440GHz(完全1オクターブ)のDESHIMA2.0をASTE望遠鏡に搭載し、本格的な科学運用観測を実施する準備を進める。並行してLMT望遠鏡に搭載する多画素化したDESHIMAの開発に向けた設計及び実験室での評価試験等を進める。当初は7x7=49画素の分光アレイを想定していたが、新しい設計解を活かしつつ、より現実的な仕様として、5x5=25画素版の実現を急ぐ。また、LMT望遠鏡の現状での鏡面精度や大気条件を考慮し、観測周波数範囲は、185GHzから365GHzとして設計を進めている。この仕様で期待される性能の定量的な評価も進めており、これで当初期待していた観測能力を達成できる性能になることを確認している。またアルマ大型プログラムで得られた重力レンズ銀河団の背後にある遠方銀河の解析と論文出版を進める。なお、これらチリおよびメキシコにおける観測研究を推進するにあたり、新型コロナによる感染症の影響については、開発を進めているオランダや日本での状況も含め、慎重に見極める必要がある。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 10件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 5件) 備考 (5件)
Journal of Low Temperature Physics
巻: 199 ページ: 231-239
10.1007/s10909-020-02338-0
Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 72 ページ: id.2 (1-23)
10.1093/pasj/psz121
巻: 71 ページ: id.111 (1-21)
10.1093/pasj/psz096
The Astrophysical Journal
巻: 887 ページ: id.24 (1-20)
10.3847/1538-4357/ab50be
Science
巻: 366 ページ: 97-100
10.1126/science.aaw5949
Nature Astronomy
巻: 3 ページ: 989-996
10.1038/s41550-019-0850-8
Nature
巻: 572 ページ: 211-214
10.1038/s41586-019-1452-4
巻: 882 ページ: id.107 (1-20)
10.3847/1538-4357/ab3791
巻: 71 ページ: id.71 (1-23)
10.1093/pasj/psz049
巻: 878 ページ: id.73 (1-8)
10.3847/1538-4357/ab0d22
Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems
巻: 5 ページ: 035004(1-12)
10.1117/1.JATIS.5.3.035004
https://sites.google.com/view/deshimamosaic/home
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/37_topics/data/00102-12601-80321587.pdf
https://alma.mtk.nao.ac.jp/aste/pressrelease/2019deshima/index.html
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2019/6480/
https://www.riken.jp/press/2019/20191004_1/index.html