2018年4月にオーストラリアにてJAXA大気球実験室との共同により実施した大気球に搭載した中面積エマルション望遠鏡による観測実験の解析を進めた。2019年度の解析で5σの有意度で検出することに成功したVelaパルサーからのガンマ線イメージング解析について,解析手法を質的量的に改善するとともに,データの詳細な分析により検出器の系統的なアライメント補正の手法を確立して結像性能をさらに改善し,有意度を7.4σまで高めた。さらに,従来の貫通飛跡データから再構成する方法に対して,飛跡を構成する銀粒子を直接計測して再構成する方法により角度分解能のさらなる改善に成功し,検出器内で発生したガンマ線データで検証した。 2018年実験の解析結果も踏まえ,2021年春のオーストラリアでの実施がJAXAに採択されている科学観測開始に向けて望遠鏡の開口面積の拡大するための各種開発を進めた。原子核乾板の乳剤製造およびフィルム製造については,大量生産を実現する原子核乾板乳剤製造設備,印刷技術を応用したロールtoロール機械塗布設備を名古屋大学内に整備した。ガンマ線事象に時間情報を付与する多段シフターは,大面積軽量化のために従来の金属ステージ往復型からローラー駆動式に設計変更を行った。これを用いた大面積エマルション望遠鏡を搭載するため,樹脂膜製与圧容器ゴンドラは形状を球形から長繭型に変更する開発を行い,製作を進めた。多段シフター,与圧容器ゴンドラおよび姿勢モニター用スターカメラなどの各構成要素について,気球観測を想定した低温・低圧での環境試験を進めた。 2020年からの新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い,オーストラリアでの実験実施がJAXAにより2回にわたって延期されることとなり,2023年春の実施となった。
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