研究課題
本研究は、レーザー干渉計型重力波検出器の較正(キャリブレーション)の系統誤差を抑え国際観測網における較正の標準化に資すること、また正確な較正データがもたらす重力波イベントの解析の精度評価やいっそうの解析高精度化を行うことを目的としている。本研究ではこれらをハードウエアとソフトウエアの両面から推進している。国際重力波観測網に貢献し、観測時代のサイエンスを目指している。本年度の最も主な成果は、日本の重力波観測検出器KAGRAの較正データを公式に生成したことである。これは本研究が推進してきた光輻射圧式キャリブレータ(PCAL)を用いてKAGRAが生成した最初の観測データである。2020年2月から4月にKAGRAは米国LIGO,欧州Virgoの第3次観測運転への参加要件を満たした。コロナウイルス禍の影響で観測期間が切り上げられ、代わりに独GEOとの同時観測を行ない国際観測網の一角としてデータを取得した。このデータにPCALによる較正を加えて、時空の歪みに換算した時系列構成信号h(t)を生成する必要があった。我々はこれに取り組み、10月にはKAGRAの公式オフライン較正データを共同研究者にリリースできた。さらにこの較正データはLIGO,Virgoならびに4月に同時観測した独GEOらとの国際観測網での共有に提供した。国際観測網とのデータ共有にも、ソフトウエア運用やデータ保管・解析の点でも本研究は大いに貢献している。解析面では、低遅延での国際観測網のデータを受取る利点を生かして、時系列データのt-f表示モニターを開発した。これはさらに改良してガンマ線バーストの公開アラート(GCN)をトリガーとしたデータ表示も開発した。また、ラプラス変換を応用した時間ー複素周波数空間での信号解析も進めた。
2: おおむね順調に進展している
現在までのところ、ほぼ順調に研究が進んでいる。前年度までにKAGRA干渉計の両端の2カ所に光輻射圧式キャリブレータ(PCAL)のインストールを行なった。片方の装置には不具合が発生している。2020年2月末から同年4月にかけてのKAGRAの観測運転にて較正に必要なデータを取得した。これはKAGRAにとっては最初の本格的な較正であったため、時空の歪みに換算した時系列構成信号を計算するには、いくつかの初めて経験する困難さを解決する必要があった。PCALは特定周波数の強度変調をかけたレーザーを鏡に注入し、それに対する干渉計の応答から絶対的な較正を行う。この際に、主干渉計制御系の符号との整合性、PCALレーザー系の伝達関数、干渉計応答関数の変数決定誤差といったことを抑え、インパルス応答フィルターを完成させ、電圧信号を処理して時空の歪み相当に較正するのである。本研究予算で雇用している若手研究者が中心となって研究を進め、最終的に保証周波数範囲と系統誤差を評価した較正データを国際観測網に提供できた。現時点ではKAGRAの感度や安定性が海外の検出器にまだ比肩しないが、誤差の定量評価を行なった較正データが作成できたことは、本研究の目的の中核は達成できたと言える。KAGRAを含む国際観測網のデータの解析研究も着々と進んでいる。2020年度は観測データに備えて、大阪市大における計算機クラスタのデータ保管容量を増設した。また観測データに対応して、リアルタイムでの処理系も進めた。大阪市大に届く低遅延(検出器での観測から~10秒前後)の国際観測網データを、約1分毎に時間ー周波数領域で表示する仕組みや、ガンマ線バースト観測網GCNアラートを受信して、当該時刻のデータのみを処理して表示するなどの仕組みを整備している。またラプラス変換やヒルベルト=ファン変換による遷移波形を対象とする新しい解析も進展した。
今年度は本研究の最終年度であるが、KAGRAだけでなく世界中の重力波検出器は2022年6月以降の次期観測運転のためのアップグレード作業に入っており、新たな観測データは見込めない。本来、次期観測(第4次観測)は本研究期間の最後に予定されていたが、コロナウイルス禍により開始が遅延した。そのため本研究の期間内には、第3次観測での知見を生かして、較正については、ハードウエア、ソフトウエアの改良を進める。一方で、既に得られているデータやシミュレーションデータを用いて、重力波イベントのデータ解析を進めてゆく。ハードウエア系では、現在インストールされてるPCALに、いくつか改良が必要である。大きなステアリング・ミラーを含む光学系の改良、電気系雑音の低減のための作業を進めている。時空の歪み相当の時系列信号h(t)の生成については、リアルタイムでの生成を強化し、計算パイプラインを改良する。そのために、米LIGOにて実績のあるソフトウエアを移植する。また、パイプラインの改良は、ハードウエア系の応答を較正するパラメーターの決定とも密接に関係しており、連携して進める。解析関連では、較正精度の影響の評価(例:連星合体イベントの方向決定精度。また特に系統的な誤差の影響)を進める。2020年度に進めたリアルタイムモニター系はかならず後の観測で役に立つので、安定稼働できるように整備し、改良を行う。また、国際観測網とのデータ共有では、従来の1対1転送よりも拡張性の高いメッセージベースの新しい方法に移行しつつある。本研究でもそれに対応してゆく。最終取りまとめのためのワークショップ開催を検討している。研究協力者や海外の同様の研究に関わる研究者に参加をお願いする予定である。ただし、社会状況によってはオンライン開催となる可能性がある。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 7件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (26件) (うち国際学会 10件、 招待講演 1件) 備考 (3件)
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