研究課題/領域番号 |
17H06134
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田島 治 京都大学, 理学研究科, 准教授 (80391704)
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研究分担者 |
木内 健司 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00791071)
片山 伸彦 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (50290854)
長谷川 雅也 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (60435617)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | 宇宙マイクロ波背景放射 / 原始重力波 / インフレーション / ニュートリノ |
研究実績の概要 |
史上最大のCMB望遠鏡群プロジェクトSimons Observatory (SO)の望遠鏡を開発し、原始重力波の発見とニュートリノ質量の研究を目指す。SOは、大角度スケール観測に特化した望遠鏡(SAT)3台と、小角度スケールパターンの観測に特化した望遠鏡(LAT)1台を製作しており、本研究ではSATの開発に注力する。特に日本グループはSATの心臓部である極低温光学系(OT)の全台数の開発を請け負っている。 前年度に開発したOTの高純度アルミニウム構造体に黒体を取り付け、OT構造体を完成した。3次元測定器によって公差要求を満たす事を確認した上で、極低温に冷却する試験を行った。極低温に冷却したOT構造体の要所要所で生じている熱勾配の測定を行い、それが当初の熱設計仕様を満たすことが確認できた。本課題で開発したOTは、大きな構造体を1Kもの極低温を維持すると共に、特殊な内壁構造とそこに設置した黒体によって、究極の低ノイズ光学系となる。 望遠鏡の感度を最大化する為には、“迷光”と呼ばれる観測値周辺の山からの地面放射の影響も、徹底的に抑制する必要がある。迷光の抑制は、望遠鏡の周辺を覆うグランドシールドと呼ばれる壁と、バッフルと呼ばれる望遠鏡の開口部に設置する煙突のようなシールド(望遠レンズのついたカメラに取り付けるレンズフードと同様の役割を果たす)を組み合わせて行う。波動光学シミュレーション等を駆使した最適化研究を行った。 SOは従来実験の10倍感度を実現する実験であり、それに見合った精度での望遠鏡較正が要求される。特に、偏光角(計測するCMBの電場成分の振幅の向き)と受信機の応答性の理解は、実験成功の可否を左右する重要な較正である。代表者と分担者の先行実績に基づき、これら較正装置の開発も日本グループ主導で開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では来年度に予定していたSAT3号機用のOTの開発に今年度から着手したことから、当初の計画以上に進展していると自己判断する。本課題の全体計画を見返しても、当初計画の段階では「概念」にとどまっていたSATを具体的なデザインとして成立させ、さらに3台製作することで原始重力波の探索感度を最大化する見通しを立てた。日本グループは、SATの性能を大きく左右する要素であるOTの開発を3台全て担当する。また、較正装置の開発を新たに主担当することになった。これらは、国際共同研究チームの中で日本グループの独創的な実績が評価されているからである。国際プロジェクトとしての観測開始時期の変更という大きな決定はあったものの、当初の期待以上に進展している。さらには、本研究のアップグレード提案が日本学術会議「マスタープラン2020」の「学術大型研究計画」のひとつに選定されるなど、サイエンスの重要性も高く認識されている。
また、本研究費以外の努力によって、これまでに若手研究者5名が新規に参画する研究体制も確立した。これは、当初計画していた研究員2名の雇用を大きく上回る規模の進展であり、本課題が魅力的な研究であることの客観的指標とも言える。そして、これら若手研究者達の有機的な連携によって、種々の問題に対する解決方法を効率的に確立してきた。その過程で「世界一大きな超伝導ベアリングの開発」や「3Dプリンタ黒体の開発」などの独創的な研究成果を創出し、それぞれ本研究の若手が主著者としての論文が出版(または掲載確定)された。以上の結果、これまでの遅れを取り戻すことに成功しただけでなく、2020年度予算の前倒しをするまでに順調な研究進展を成し遂げている。
これらの理由に基づき、当初の計画以上の成果が見込めると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画通り、SAT1号機のOTを日本で完成させ、それと受信機クライオスタットとの最終統合作業を米国で行う。並行して、SAT2号機、3号機のOTの製作を進め、来年度後半に統合作業を始める。また、日本グループが昨年度から新たに請け負うことになった較正装置の開発も進め、実証試験を行う。そして最終年度へ向けて、データ解析パイプラインの開発を国際共同で進める。日本グループは、SATにおける解析とマップ作成パイプラインで主導的な役割を期待されており、SAT開発の経験を生かしながらこれを進める。
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