研究課題/領域番号 |
17H06137
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
川村 光 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 客員教授 (30153018)
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研究分担者 |
青山 和司 大阪大学, 理学研究科, 助教 (00623133)
富安 啓輔 株式会社日産アーク(マテリアル解析部、デバイス機能解析部), マテリアル解析部、デバイス機能解析部, 主任研究員 (20350481)
鳴海 康雄 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (50360615)
高阪 勇輔 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60406832)
南部 雄亮 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (60579803)
石渡 晋太郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (00525355)
太田 仁 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 教授 (70194173)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | スピンテクスチャ / フラストレーション / トポロジカル励起 / スカーミオン / Z2渦 |
研究実績の概要 |
Z2渦候補物質NaCrO2粉末試料に対しR元年度の中性子準弾性散乱測定によって見出されたエネルギー幅 ~ 0.001Jの極めてシャープなセントラルピークに関し、R2年度には新たな大規模数値シミュレーションと詳細な実験データ解析を行い、自由Z2渦の同定に成功した。現在論文執筆中である。3角格子反強磁性体NiGa2S4、FeGa2S4も、単結晶が得られるZ2渦転移の有力候補物質である。NiGa2S4に対し、OakRidgeのHYSPEC分光器を用いてインコヒーレント散乱の系統的な除去が可能となる新たな方式の非弾性中性子実験を行いデータ解析を進めている他、FeGa2S4に関しても、JPARCのAMATERASでの中性子非弾性散乱測定でセントラルピーク強度の増強を観測した。対称的スカーミオンに関しては、R2年度は金属系を重点に実験・理論研究を展開した。局所的な反転対称性を持った積層3角格子金属磁性体EuCuSbに対しゼロ磁場下での中性子散乱を行い、その磁気構造を決定し論文として公表した。また、磁場中で非自明なトポロジカルホール効果を観測しており、今後中性子散乱・X線散乱測定も合わせて磁場中磁気構造を明らかにしたい。RGa2(R = Ce,Pr,Nd)については、テトラアーク炉を用いての単結晶試料合成に成功し、今後、各種物性測定、中性子散乱測定を進める。絶縁体に関しても、NiGa2S4およびFeGa2S4に対し高磁場中でスカーミオン格子探索を行っており、高磁場下ESRにより低磁場の振る舞いとは異なる磁気相関の増大を示唆するデータを得た。理論面では、RKKY相互作用を持った2次元3角格子および3次元積層3角格子上のハイゼンベルグモデルに対し大規模数値シミュレーションを行い、磁場中でレプリカ対称性の破れを伴う新奇なスカーミオン格子相を見出し、現在論文作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画で主要なターゲットとしているスピンテクスチャは、Z2渦と対称的スカーミオンである。Z2渦については、先に候補物質NaCrO2粉末試料に対し行った中性子準弾性散乱測定によって見出されたエネルギー幅 ~ 0.001Jの極めてシャープなセントラルピークについて、R2年度に行った新たな大規模数値シミュレーションと詳細な実験データ解析により自由Z2渦を同定することに成功した。NiGa2s4に対してもZ2渦転移に伴う中性子散乱強度の異方性の増強を観測した。理論面では、Z2渦の寄与によりZ2渦転移点でスピン伝導度が発散することを見出した。対称的スカーミオンについては、金属候補物質を主たる対象に、理論および実験研究を進めた。理論的には、RKKY相互作用モデルに対しレプリカ対称性の破れを伴う新奇なスカーミオン格子相や多重Q秩序相を見出した。実験面では、金属候補物質EuCuSbやRGa2(R=Pr,Nd,Ce)に対し単結晶育成や輸送測定・中性子測定を行い、ゼロ磁場でのスピン構造を明らかにするとともに、磁場中でもトポロジカルホール効果を観測する等の興味深い性質を明らかにした。スカーミオン格子相の同定には至っていないが、最終年度にはこれまでの結果を発展・統合し、磁場中非自明相の同定とその性質の精査を行いたい。合わせて、Z2渦と対称的スカーミオン格子以外の多重Q秩序・スピンテクスチャについての探索も進めている。理論面では、ある種のブリージングパイロクロア格子上のハイゼンベルグモデルにおいてヘッジホッグ/反ヘッジホッグ格子に対応した3次元スピンテクスチャが生起され、磁場中ではスカラーカイラリティ由来の非自明なトポロジカルホール効果が出現することを見出した。実験面でも、ダイアモンド格子構造を持つ3次元磁性体MnSc2S4に対し、多重q秩序状態と思われる新たな高磁場秩序相を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
Z2渦については、R2年度までにNaCrO2に対する準弾性散乱中性子測定とハイゼンベルグモデルに対する大規模モデルシミュレーションによりZ2渦励起の同定に成功したので、R3年度にはこの成果を論文として公表する。NiGa2S4に対しOakRidgeのHYSPEC分光器によりインコヒーレント散乱の系統的な除去が可能となる新方式の非弾性中性子実験を行った。解析手法が確立していないこともありデータ解析に時間を要しているが、R3年度には解析を完遂したい。FeGa2S4に関しても、R2年度に行ったJPARCのAMATERASでの中性子非弾性散乱測定に引き続き、R3年度はより高分解能な中性子非弾性散乱測定を行う。R2年度までの理論研究から、Z2渦転移温度でスピン伝導度が発散することが示唆されたが、R3年度にはこの効果の実験検証をNiGa2S4等を対象に行い、フラストレーションが創るスピンテクスチャが輸送現象に及ぼす新規現象の開拓につなげたい。 対称的スカーミオンに関しては、金属系を重点に実験・理論研究を展開している。局所的な反転対称性を持った積層3角格子金属磁性体EuCuSbに対しては、R3年度には磁場中測定を行い、既に非自明なトポロジカルホール効果を観測している輸送現象と合わせて、中性子散乱・X線散乱測定により磁場中磁気構造を明らかにする。RGa2(R = Ce,Pr,Nd)についても、R2年度までにテトラアーク炉を用いて良質な単結晶試料合成が可能になっており、R3年度は各種物性測定・輸送測定とJPARC SENJUおよびOakRidge WAND2で磁場中中性子小角散乱測定を行い、磁場中での磁気相を明らかにする。 これらの諸成果を年末にオンラインでの開催を予定している国際研究集会で発表し、フラストレーション起源のスピンテクスチャに関し関連分野の研究者と議論を深めたい。
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