研究課題/領域番号 |
17H06139
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岡本 創 九州大学, 応用力学研究所, 教授 (10333783)
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研究分担者 |
佐藤 可織 九州大学, 応用力学研究所, 助教 (00584236)
石井 昌憲 国立研究開発法人情報通信研究機構, 電磁波研究所リモートセンシング研究室, 主任研究員 (70359107)
西澤 智明 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 室長 (10462491)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | 地球観測衛星 / 雲 / 高スペクトル分解ライダ / ドップラーライダ / 風速 / ライダ多重散乱 / 雲レーダ |
研究実績の概要 |
本課題で開発した地上多視野角・多重散乱ライダは、5つの視野角(合計90mrad)で平行成分と直交成分を測定可能な10チャンネルのシステムで構成される、初の波長355nmの多重散乱ライダである。アナログとフォトンカウンティングを組み合わせて高感度化を達成し、積分球による人工光源を用いる事で、高精度の校正を実現した。水雲や光学的に厚い氷雲の観測結果から、真上向きのチャンネル(オンビーム)と比較して、斜めのオフビーム方向のチャンネルで検出される偏光解消度は、多重散乱の影響を受けて大きくなる事、衛星搭載ライダでも、これと同等の効果が期待できる事がわかった。 波長355nmの高視野角・高スペクトル分解ライダ(HSRL)は走査型マイケルソン干渉計を用いるが、これによって長時間安定して広視野角・高スペクトル分解機能を達成した。この新しいHSRLによって、ラマンライダのように夜間だけでなく、減衰の影響を受けないエアロゾルや雲の後方散乱係数と消散係数を独立して24時間連続抽出可能となった。EarthCARE衛星搭載ライダATLIDと同じ観測量が得られる事になった。 衛星搭載高スペクトル分解ライダの観測量の解釈にも進展があった。氷粒子の形状と配向状態が異なる粒子のタイプ識別を行うため、様々の氷粒子形状を網羅し幅広いサイズ分布と、衛星ライダの観測条件を考慮した初めての包括的な後方散乱計算を実施した。EarthCARE衛星搭載ATLIDライダの観測である消散係数と後方散乱係数の比で定義されるライダ比と、偏光解消度の2次元ダイアグラムから、氷粒子の形状と配向状態の識別が可能になることを示した。 CloudSatレーダとCALIPSOライダを複合的に利用して氷粒子の微物理特性の全球解析を行い、山岳地帯で氷粒子密度や氷水量が非常に大きい値をとること、それらは上昇流速度に依存している事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異なる衛星ライダの観測条件に起因するスケールギャップを埋めるライダとして、5つの異なる視野角で観測する多重散乱型の偏光ライダを開発し、Aeolus衛星搭載ライダ、EarthCARE衛星搭載ATLID、CALIPSO衛星搭載ライダのフットプリントサイズであるそれぞれ9m, 30m 90mの観測条件を網羅する事ができた。衛星で観測される大きな後方散乱強度と偏光解消度等、衛星と同等の信号を地上観測で再現することに成功した。積分球による人工光源を利用した校正手法は、将来衛星搭載ライダでも適用可能な技術と言える。 多重散乱型の多波長の高スペクトル分解ライダ観測を初めて実現できた。これはAeolus衛星搭載ライダやEarthCARE衛星ライダATLIDと同じ波長で、初めて走査型の機構を取り入れた高スペクトル分解ライダである。また広視野角も初めて実現した。走査型干渉計という簡便な機構を導入したが、この結果安定した堅牢なシステムを構築する事ができ、従来困難だった長期間の連続観測が可能となった。 様々の氷粒子形状を網羅し幅広いサイズ分布を考慮した衛星ライダの観測条件を考慮した初めての包括的な後方散乱の理論的解析が進展した。この成果は次世代型観測と衛星解析の両方で適用され、実際にこの成果の一部をCloudSat・CALIPSO衛星の同時解析アルゴリズムに組み込んで氷微物理特性の全球解析を実施した結果、氷粒子個数密度と氷水量が高い領域を特定でき、そこでは鉛直流が卓越している事が示唆される結果を得た。 以上の進捗状況から、当初の目標に向けて順調に研究が進展しており、予定通りの成果が見込まれると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
地上観測機器開発・観測・解析では、ドップラー雲レーダとドップラーライダのドップラー観測、それらと高スペクトル分解ライダ、多視野角・多重散乱偏光ライダ観測を組み合わせた複合解析を実施する。 雲・降水・エアロゾル微物理特性、粒子落下速度、鉛直流解析を実施し、複合観測解析プロダクトデータセットを作成する。衛星解析アルゴリズムの検証と改良を実施する。高スペクトル分解ライダとドップラー雲レーダ・ドップラーライダから、エアロゾル・雲・降水に関する粒子タイプ識別を実施する。 ドップラー雲レーダとドップラーライダのドップラー観測から、雲・降水粒子の落下速度と大気の鉛直流を独立に抽出する。 水雲微物理特性解析には、多視野角・多重散乱偏光ライダの観測データにPhysical Model (PM)法とそれを拡張し偏光解消度を取り扱う事のできるVectorized Physical Model (VPM)を適用し、高精度の雲微物理特性を抽出する。氷雲、霧雨、降水域では、多視野角・多重散乱偏光ライダと高スペクトル分解ライダに加えドップラー雲レーダ・ライダも組み合わせて、衝突併合に伴うサイズ分布形状の変化を考慮した抽出アルゴリズムを開発し微物理特性抽出を行う。 検証された衛星アルゴリズムをCloudSat/CALIPSO/Aeolus衛星のデータに適用し、雲・エアロゾル・降水の粒子タイプ識別とそれらの微物理特性の全球分布を解析する。 雲・降水・エアロゾルの微物理特性と鉛直流・水平風鉛直シアの複合解析を行う。EarthCARE衛星の初期データ解析を実施し、雲内の鉛直流と雲・降水粒子落下速度の全球解析を新たに実施する。全球モデルとの微物理特性・鉛直流の比較解析を実施する。以上から全球で雲-対流パラメタリゼーションの検証・開発を実施する。
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