有機合成の反応は二つの大きなジャンルに分けることができる。反応剤支配の反応と基質支配の反応である。私どもはルイス酸触媒を用いることで、この基質支配の反応を一気に発展させた。これまで不可能と言われていたビスホモアリルアルコールの不斉酸化やペプチド合成などがその範疇に入る。また、開発したチタン触媒の研究によって、ビスホモアリルアルコールの不斉酸化に98%以上の選択性で達成することができた。さらには、それらを様々な遠隔酸化反応にも応用した。ペプチド合成でもこうした基質支配の反応が鍵となることを実証し、特にTaやLn触媒を用いてラセミ化が全くないペプチド合成を完成させた。 ペプチドの合成では、ペプチド鎖の様々な官能基が反応剤を配位して、付近の別の官能基を活性することが可能であり、このコンセプトによって従来のペプチド合成の限界を突破することができた。つまり、旧来のペプチド合成は、反応剤支配の反応であり、カルボン酸活性化法とも言われている。そのために、保護基が必要であり、またラセミ化を防ぐことができなかったが、私どもはこれらの課題に取り組み一気に解決することができた。
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