研究課題/領域番号 |
17H06143
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
岩澤 伸治 東京工業大学, 理学院, 教授 (40168563)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | 二酸化炭素固定化 |
研究実績の概要 |
昨年度の研究で低原子価ルテニウム錯体を用いるエチレンと二酸化炭素からのアクリル酸合成反応の検討を行い、4座のホスフィン配位子を持つ0価ルテニウム錯体を用いることにより、パラジウム、ニッケル錯体以外では初の触媒的アクリル酸合成を実現した。今年度は本反応の反応機構の解明を目指した検討を詳細に行った結果、ホスフィン上の置換基により各素過程の反応性が大きく変化すること、ルテナラクトンのヒドリドアクリラト錯体への開環が加熱するだけで塩基を添加せずとも進行すること、またルテナラクトンからのカルボキシラート部位の脱離が律速であることなどを明らかにすることができた。これはニッケルやパラジウムのメタララクトンでは見られなかった過程であり、今後の反応効率の向上を目指した検討に重要な指針を与える結果である。 可視光エネルギーを利用する二酸化炭素固定化反応に関しては、シンナミルアルコール由来のエステルを基質として用いる反応の検討を行い、パラジウム触媒とイリジウム触媒を組み合わせることで収率良く光カルボキシル化が進行することを見出した。 新たに炭素-水素結合活性化に基づくカルボキシル化反応を可視光エネルギーを利用して実現することを目指し、ヒドリドロジウム(I)種を用いる炭素-水素結合活性化に基づくカルボキシル化反応の開発に取り組んだ。化学量論反応であるが、これまでほとんど利用されたことのないPSP型Xantphos配位子を用いることにより、ヒドリドロジウム(I)錯体を用いたベンゼンの炭素-水素結合活性化が可視光照射下で進行しフェニルロジウム(I)が得られること、これに銅塩を添加し二酸化炭素雰囲気下とすることでカルボキシル化が進行することを見いだした。今後この反応をもとに、可視光エネルギーを利用する触媒反応へと展開したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにエチレンと二酸化炭素からのアクリル酸合成に関して、ニッケル錯体やルテニウム錯体を用いて新たな触媒反応を開発してきた。今年度はこれら反応のさらなる効率化を実現するため、反応機構面に関する検討を中心に行った。その結果、ルテニウム錯体を用いる反応の重要中間体を単離することに初めて成功し、反応経路や律速段階に関する有用な知見を得ることができた。これらの成果はさらなる触媒効率の向上を実現するための重要な指針となるものである。 可視光エネルギーを利用する反応に関しては、従来の系の展開を行うとともに、新たに炭素-水素結合の活性化を伴う光カルボキシル化反応の検討を行い、今年度その端緒となる成果が得られた。この反応に関しては今後集中的に検討を行う予定である。加えて新しい可能性を示唆する成果をいくつか得ており、これらを総合的に判断し、研究は順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにエチレンと二酸化炭素からのアクリル酸合成、ならびに可視光エネルギーを利用するカルボキシル化反応に関し、反応機構の解明を目的とした検討を錯体レベルで行い、各素過程の反応性に関する知見を得ることができた。今後はこれらを通じて問題となる素過程に関しその改善を目指して検討を行い、それを踏まえて触媒回転数の向上の実現を目指す。また、可視光エネルギーを利用する反応に関しては、炭素-水素結合活性化を契機とする反応に関して、さまざまな検討を行う。これについては、塩基を用いる反応や可視光エネルギーを利用したアプローチをさまざま検討する計画である。さらに新しい可能性を広く探索し、独創的な反応の開発を目指す。
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