研究課題/領域番号 |
17H06144
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
グン 剣萍 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (20250417)
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研究分担者 |
黒川 孝幸 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (40451439)
野々山 貴行 北海道大学, 先端生命科学研究院, 特任助教 (50709251)
キング ダニエル 北海道大学, 先端生命科学研究院, 助教 (50794583)
中島 祐 北海道大学, 先端生命科学研究院, 助教 (80574350)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | 複合材料 / 高分子材料 / ソフトマター / ゲル / 高強度 |
研究実績の概要 |
本研究は、ソフト材料の強靭化理論である犠牲結合原理を、ソフト相とハード相からなる複合材料に拡張し、金属を凌駕する強靭なソフト/ハード複合材料の開発を目指す研究である。本年度は、以下2つのトピックについて研究を行った。 1. ソフト相を犠牲結合とする複合材料の強靭化メカニズム理解 ハード相としてガラス繊維の織物を用い、ソフト相としてガラス繊維と強く接着する強靭なポリアンフォライト(PA)ゲルを用いた強靭なコンポジットを創製し、その強靭性が何に由来するのかを評価した。例えば、SEMによる破断面の観察の結果、破断面近傍のガラス繊維にゲルの付着が見られたことから、本コンポジットの破壊は主にソフト相内の亀裂伸展(およびガラス繊維の破断)によって生じていることが分かった。さらにPAゲルとガラス繊維との接着力を減少させたところ、タフネスが有意に減少したことから、界面の接着がコンポジットの強靭性に極めて重要であることが分かった。これらの現象を基に本コンポジットの破壊モデル構築に挑戦しており、定性的には実験結果を再現することに成功した。 2. ハード相を犠牲結合とする複合材料の創製 ハード相として低融点合金の2次元格子を3Dプリンティング技術の応用よって作成し、ソフト相として強靭な水素結合性ゲルを用いた、巨視的なダブルネットワーク構造を有するコンポジットを創製した。本ゲルは、延伸に伴いハード相の金属2次元格子が先に破壊されることによりエネルギーを散逸する(強靭化する)ことが分かった。また、破壊された金属の格子は加熱によって液化するため、容易に修復することが可能であり、破壊と修復を何度でも繰り返すことが出来た。すなわち、ハード相を犠牲結合とするコンポジットの創製と、ハード相の容易な修復に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画であった、ソフト相を犠牲結合とする材料の創製と強靭化メカニズムの解明に加え、ハード相を犠牲結合とする強靭材料を創製することが出来た。この際、ハード相として低融点合金を用いるという発想により、破壊されたハード相の容易な修復をも達成することが出来た。これは申請時の予想を超える成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、トピック2について、犠牲結合となるハード相の骨格構造や化学種が複合材料の強靭化に及ぼす効果を解明する。具体的には、様々な形状の二次元格子を設計し、高性能3Dプリンターによって印刷、ソフトマトリックス相と複合させる。硬い骨格としては、アクリル樹脂、セラミックス、金属などの材料を用いる。硬い格子の密度・太さ・形状、両成分の界面の粘着性などを様々に制御し、これらパラメーターと複合体の力学物性、および延伸時に生じる硬い網目の破壊挙動との相関を定量的に評価し、高靱性を得るための構造・物性因子を決定する。 続いて、上記実験で得られた知見をもとに、三次元骨格構造を有する複合体を創製する。三次元ハード相として、一般的な格子構造(例えばジャングルジム状)のほか、オーセチック格子構造の導入にも挑戦する。オーセチック構造は、その特異な網目構造によりある方向に引っ張ると直交方向にも広がる特性を有し、生体に負担なくフィットするスポーツウエアなどに使われている。オーセチック格子構造とソフトマトリックスを複合した材料は、前者の非圧縮性による高い体積弾性率と後者の負のポアソン比のミスマッチにより、表面は柔軟だが、バルクは極めて硬いというユニークな力学物性が予想される。このような三次元材料の力学物性を、単純な引張試験のみならず、曲げ、ねじりなどの様々な試験で評価する。 また、トピック1の、犠牲結合を有する強靭ゲルをソフト相、繊維織物をハード相とする複合材料の高靭性化メカニズム解明にも取り組む。昨年度の研究により、このような複合材料の強靭化にはソフト相とハード相間の界面の接着性が極めて重要であることが分かった。本知見を踏まえ、本年は、界面近傍のソフト相がゲルのマクロな変形に伴ってどのように変形し、エネルギーを散逸するかを顕微鏡下における延伸実験によって観察、解明する。
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